冬晴れの一日、横浜にある国指定名勝・三渓園(さんけいえん)に行ってきました。永井紗耶子さんの『横濱王』(小学館文庫)を読んで以来、ずっと訪れてみたかった場所のひとつでした。
三渓園は、明治末から大正にかけて、生糸の貿易で財を成した横浜一の実業家・原三渓(本名富太郎)が、三之谷(現在の横浜市中区本牧三之谷)につくった、175,000㎡にも及ぶ日本庭園です。
横浜 三溪園 - Yokohama Sankeien Garden -
三溪園は横浜市中区本牧三之谷にあり、実業家で茶人の原三溪によって作られた日本庭園です。国の重要文化財建造物10棟、横浜市指定有形文化財建造物3棟を含め、17棟の建築物を有し、広大な敷地の起伏を生かした庭園との調和がはかられています。
四季折々の花が咲き、園内の大池にはマガモやキンクロハジロが泳いでいていて、都会の喧騒を忘れさせてくれます。
行った時はちょうど、白梅、紅梅、蝋梅…と、園内の梅が見ごろでした。
さて、『横濱王』は、大正12年(1923年)の関東大震災から、太平洋戦争直前の昭和13年の横浜が描かれています。
大陸で商売をして青年実業家となった瀬田が、軍に伝手のある山名に、軍需物資を扱えるように取り計らってほしいと依頼したところ、原三渓から出資を引き出せればと条件を付けます。
「この街のキングと言えば、誰だと思う」
山名は瀬田を試すような視線を向けた。瀬田は暫く黙り、その名を恐る恐る口にした。
「原……三渓ですか」
山名は黙って微笑んで見せる。
(『横濱王』P.31より)
三渓へのコネがなく、彼のことを良く知らない瀬田は、雑誌の記者と称して、三渓のことを知る人たちに会い、話を聞いていき、三渓の実像に迫ろうとします。
そしてついに瀬田は、三渓本人に会うことに……。
関係者への取材した話を通して、実像に迫る手法は、後の直木賞受賞作『木挽町のあだ討ち』に通じるところがあり、、新聞記者やフリーライターとして経験を持つ著者ならではのもの。
横濱王、原三渓の素顔に迫る、エンタメ近代小説
『横濱王』 小学館文庫から刊行された、永井紗耶子(ながいさやこ)さんの近代長編小説、『横濱王(よこはまおう)』を紹介します。 昭和十三年。青年実業家瀬田修司は、横濱一の大富豪から出資を得ようと原三渓について調べ始める。三渓は富岡製糸場のオー...
■今回紹介した本
永井紗耶子|時代小説ガイド
永井紗耶子|ながいさやこ|時代小説・作家 1977年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 新聞記者を経て、フリーランスライターとして活躍。 2010年、「恋の手本となりにけり」(2014年、文庫刊行時に『恋の手本となりにけり』と改題)...