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兄妹が営む江戸の飼鳥屋を舞台にした、時代ミステリー第2弾

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『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜』|和久井清水|講談社文庫

かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜江戸のペットショップ、飼鳥屋(かいとりや)が活躍する時代小説というと、蝉谷めぐ実さんの『化け者心中』、梶よう子さんの『ことり屋おけい探鳥双紙』、志川節子さんの『花鳥茶屋せせらぎ』などが思い浮かびます。いずれも傑作ぞろいです。

和久井清水(わくいきよみ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『かなりあ堂迷鳥草子(めいちょうぞうし)』は、2022年10月に文庫書下ろしで登場し、今回、第2弾の『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜(とうみつ)』(講談社文庫)が出ました。

江戸は平川町で小鳥専門のペットショップ、飼鳥屋「かなりあ堂」を兄と二人で営むお遥(はる)を主人公にし、鳥にまつわる謎を描く、連作形式の時代ミステリーです。

江戸の飼鳥屋「かなりあ堂」を兄と二人で営むお遥。血のつながらない兄妹はそれぞれ辛い過去を持っている。馴染みの棒手振りの太助のようすがおかしいと気づいたお遥は、持ち前の行動力を発揮して原因を探る。やがて彼女の過去を知る人物が現れて――。「鳥」が謎をよぶ連作時代ミステリー。

(『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜』カバー裏の紹介文より)

お遥は、気持ちを切り替えるために、凶事を吉事に取り(鳥)替えて、悪いことは嘘(鷽)にしてしまう、鷽替え神事で有名な亀戸天満宮に出かけました。

「お婆さん、大丈夫ですか?」
「あ、あ」
 見えない目でお遥を見上げ、なにかとても驚いているようだった。お遥が、「どうかしたんですか?」と問い掛けようとすると、人の波に押されて老女の姿は見えなくなってしまった。

(『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜』 P.55より)

行き会った人と何度も鷽の人形を取り替えたお遥は、小柄な老女と人形を取り替えたとき、老女はお遥の手を強く握って、とても驚いたようでした。
老女は何に驚いたのでしょう。そして、お遥は再び老女と出会うことができるんでしょうか?

その日、大名家で鳥好きの側室お万の方のために鳥の世話をする女中のお佐都が、かなりあ堂に顔を出しました。
お万の方が飼っているウグイスで、「付け子に出しているのが、もうすぐ帰って来るんです」と、うれしそうな顔をしていました。

 付け子というのは囀りの上手な成鳥のそばで、その囀りを習う雛のことをいう。成鳥のほうは付け親というが、当然ただではなく相応の謝礼は払わなければならない。
「それは楽しみですね」
 お佐都はまた、「うふふ」と笑って、付け親というのが、あの豊穣なのだと言った。
「えっ、あの豊穣ですか?」

(『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜』 P.60より)

豊穣とは、昨年と一昨年に番付の東の横綱になったウグイスで、囀りの美しさは江戸随一と言われる評判の鳥です。

豊穣の飼い主は本郷の扇問屋太田屋の主人武兵衛で、お万の方が贔屓にしている店だと。
しばらく経ってかなりあ堂にやってきたお佐都はひどく気落ちしていました。
約束の日になっても付け子のウグイスは帰ってこず、太田屋に行っても主人に会うことができずに困っていると言います。
お佐都は、お万の方を何とか元気づけたいという思いで付け子に出していただけに、気落ちして肩を落として帰っていきました。

お佐都の話を聞いて、居ても立ってもいられなくなったお遥は、太田屋まで足を運んでしまします。代金だけとって約束を果たさない武兵衛の顔を見てやろうという気もありましたが、ひょっとして豊穣の鳴き声が聞こえてくるかもしれないという期待もありました。

ところが、武兵衛の女房お槙が出てきて、主人の様子がおかしく、豊穣の部屋から長い間出てこないと。

何が起こっているのでしょうか?

「鷽替え」や「付け子」のほかにも、鳥のさえずりをそれに似た言葉に置き換えて聞く「聞き做し(ききなし)」やタイトルにもなった「盗蜜」など、鳥の生態にまつわる言葉が登場するのも面白く、夢中で読みました。

本シリーズでは、かなりあ堂の回りで起きた、鳥にまつわる謎や騒動を描くとともに、兄の徳造と血のつながらないことを知った、お遥の苦悩と葛藤が描かれています。
一方では、兄の徳造をはじめ、隣の八百屋の店主お種や、鳥見役の八田伊織など、周囲の人たちのやさしさに支えられている自分に気づくことも。
そして、物語を通して、お遥の出生の秘密が少しずつ明らかになっていくミステリータッチに興趣を覚えます。

自分的には、第五話の「抜荷」に登場する鳥がとくに気に入っています。
少年と一緒のシーンを思い描くだけで、にんまりとしてきます。
時代小説でこの鳥が登場するのは、おそらく初めてではないでしょうか。

かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜

和久井清水
講談社・講談社文庫
2023年10月13日第1刷発行

カバー装画:中島陽子
カバーデザイン:赤波江春奈

●目次
第一話 鷽替(うそかえ)
第二話 付子(つけこ)
第三話 盗蜜
第四話 聞做(ききなし)
第五話 抜荷

本文250ページ

文庫書き下ろし。

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『かなりあ堂迷鳥草子』(和久井清水・講談社文庫)
『かなりあ堂迷鳥草子2 盗蜜』(和久井清水・講談社文庫)

『化け者心中』(蝉谷めぐ実・角川文庫)
『ことり屋おけい探鳥双紙』Kindle版(梶よう子・朝日文庫)
『花鳥茶屋せせらぎ』(志川節子・祥伝社文庫)

和久井清水|時代小説ガイド
和久井清水|わくいきよみ|小説家 北海道生まれ、札幌市在住。 2015年、第61回江戸川乱歩賞候補。同年、宮畑ミステリー大賞特別賞受賞。 2019年、内田康夫氏の意志を継いだ『孤道 完結編 金色の眠り』で作家デビュー。 2022年、文庫書き...