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秀吉と家康の直接対決、小牧・長久手の戦いを描く人間ドラマ

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『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』|白蔵盈太|文芸社文庫

関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手天下分け目の戦いというと、徳川家康の東軍と石田三成率いる西軍が関ケ原の戦いが頭に浮かびます。

白蔵盈太(しろくらえいた)さんは、『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』(文芸社文庫)の「はじめに」で、「関ケ原の戦いが、全国の大名を巻き込む日本最大の合戦であったことは否定しない。だが、あれは断じて「誰が天下人になるかを決める戦い」などではない。」と、戦いの本質を喝破しています。

確かに、後の世の人の眼から見ると、経験・人望に優れた徳川家康と、管理の仕事しか知らない石田三成では、戦う前から勝負は見えているように思われます。

著者は、「誰が天下人になるかを決める戦い」は、豊臣秀吉対徳川家康という黄金カードである小牧・長久手の戦いを挙げていて、本書では、小牧・長久手の戦いだけに焦点を当てて描いています。

本能寺の変で失ったのは、偉大すぎた主君、織田信長。喪失感に襲われる中、豊臣秀吉と徳川家康の運命はこの時から大きく働き始める。信長の遺した「天下統一」という概念に気がついた時、戦巧者の武将二人はどんな戦いを繰り広げるのか。腹心の部下―秀吉には黒田官兵衛、家康には石川数正―に支えられ、知略を尽くし、命を賭けて睨み合う。天下人となるのは、秀吉か家康か。関ケ原の戦いよりもずっと熱い小牧・長久手の戦いこそが、真の天下分け目の大一番!

(『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』カバー裏の紹介文より)

本能寺の変で織田信長が死んだことを知った徳川家康は大きな喪失感と虚無感に襲われました。苦難の伊賀越えの末に、岡崎城で体制を立て直して、仇である明智光秀を討つために出陣します。

ところが、鳴海まで進軍した家康を待ち受けていたのは、光秀が羽柴秀吉と山崎で戦って敗れて死んだという知らせでした。

信長のあとを追って死ぬことができなかったばかりか、信長の仇を討つことすらできず、光秀との戦場にたどり着くことすら許されず、弔い合戦はあっさりと終わってしまったのです。

 この先、私の目の前に待っているのはなんだ。
 退屈きわまりない、灰色の世界。
 信長様のいない世界。
 そんなつまらぬものを見るために、私は生きているのではないのだ。
 
(『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』 P.31より)

一方、信長が本能寺で死んだという急報が入ってきたとき、あまりの衝撃と恐怖と悲しみで頭の中がぐちゃぐちゃになっていた羽柴秀吉。その傍らにいた参謀の黒田官兵衛は、的確に状況を分析し、今後に向けて秀吉を叱咤し、指針を示しました。

「信長様が作り上げられた織田家を――そっくりそのまま頂くのです」
「なぬ!?」
「天下。秀吉様は、信長様のご偉業を継いで、天下人になられるべきです」
 そう囁く官兵衛の目は、冗談でも大風呂敷でもなく、恐ろしいほどに真顔だった。
 
(『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』 P.58より)

清洲会議で嫡孫三法師の後見に就き織田家宿老衆の頂点に立った秀吉は、賤ヶ岳の戦いで柴田勝家と信長の三男信孝を滅ぼします。戦い後、話し合いで三法師が元服するまで信長の次男信雄を暫定の当主に、それを秀吉、丹羽長秀、池田恒興の三人の宿老が支えるという取り決めが結ばれ、織田家の新体制が始まりました。

ところが、信雄と秀吉の仲は、半年ももたずに決裂します。
信雄から家康のもとに、「信長様亡きあとの織田家をほしいままにする逆臣、羽柴秀吉を討つので力を貸してほしい」という書状が届きました。

「秀吉殿とは絶対戦ってはなりませぬ」と家老の石川数正が反対する中で、家康は信雄と同盟を結び、信長の遺志を継ぐために一世一代の大博打を始めることに……。

後付けかもしれませんが、関ケ原の戦いは、参加した武将がオールスター級であり史上最大の戦いですが、豊臣政権下での権力抗争の末の対決とも言えます。その戦後処理によって徳川家康が天下人に大きく近づいたという面があるにしても。
一方、小牧・長久手の戦いは、織田信長の後継を決める頂上決戦で、天下分け目の戦いと言えそうです。

重要な戦いであるにもかかわらず、われわれが小牧・長久手の戦いを軽視してしまうのは、家康が合戦では勝ちながらも戦いの結果として負けてしまい、秀吉を天下人にしたことが原因かもしれません。

本書では、家康と秀吉の独白を通じて、戦いの経過がつぶさに描かれていきます。二人の本音のモノローグから、それぞれの性格や行動から戦況まで明らかになっていきます。

最新の史料と作者の創作が融合して、われわれが共感できる家康像が描出されていて、興味を持ちながら一気に読み進められる、戦国エンターテインメントです。

秀吉を支える参謀・黒田官兵衛の怖さと、家康の家老・石川数正の誠実さの対比が物語に捻りを与えて面白さが倍増します。
ちなみに表紙の装画で描かれているのは、秀吉と家康ではなくて、官兵衛と数正です。

著者は、2020年、江戸城松の廊下事件の顛末を描いた『あの日、松の廊下で』(「松の廊下でつかまえて」を改題)で第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞し、2021年に同作で時代小説デビューしました。
その後も、『画狂老人卍 葛飾北斎の数奇なる日乗』『義経じゃないほうの源平合戦』『桶狭間で死ぬ義元』など、独自の視点から歴史上の人物を取り上げた歴史時代小説で注目されている気鋭の時代小説家です。

現在、一部の書店で、著者の文庫5作品に専用の帯を付けた「秋の白蔵まつり」を展開しています。文芸社さんも力が入っているようです。

『関ヶ原よりも熱く―天下分け目の小牧・長久手』 文芸社 - BookLink
白蔵まつり注文書ダウンロード 熱々のドリームマッチ、小牧・長久手の戦い!秀吉と家康の直接対決が面白くないはずがない!!

関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手

白蔵盈太
文芸社・文芸社文庫
2023年10月15日初版第一刷発行

カバーイラスト:龍神貴之
カバーデザイン:谷井淳一

●目次
はじめに
一、本能寺の変  ――徳川家康の独白
二、清洲会議   ――羽柴秀吉の独白
三、賤ヶ岳の戦い ――徳川家康の独白
四、小牧の戦い  ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
五、長久手の戦い ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
六、伊勢攻防戦  ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
七、和睦交渉   ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
八、停戦     ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
九、包囲網崩壊  ――羽柴秀吉と徳川家康の独白
十、出奔     ――羽柴秀吉の独白
十一、臣従    ――徳川家康の独白
用語解説
あとがき

本文297ページ

文庫書き下ろし。

■Amazon.co.jp
『あの日、松の廊下で』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『画狂老人卍 葛飾北斎の数奇なる日乗』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『義経じゃないほうの源平合戦』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『桶狭間で死ぬ義元』(白蔵盈太・文芸社文庫)
『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』(白蔵盈太・文芸社文庫)

白蔵盈太|時代小説ガイド
白蔵盈太|しろくらえいた|時代小説・作家 1978年、埼玉県生まれ。 2020年、「松の廊下でつかまえて」(文庫刊行時に『あの日、松の廊下で』に改題)で、第3回歴史文芸賞最優秀賞受賞。 時代小説SHOW 投稿記事 著者のホームページ・SNS...