『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』|本の雑誌編集部編|本の雑誌社
本の雑誌編集部編の別冊本の雑誌(21)、『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』(本の雑誌社)を入手しました。
目黒考二さんは、2023年1月19日に急逝されました。
本書は、本年4月に発売された「本の雑誌」2023年5月号(No.479)の追悼特集「さらば友よ!」に加えて、座談会、追悼原稿、追悼記事などを新たに収録した完全保存版です。
追悼号の「本の雑誌」は購入できなくて悔しい思いをしたので、本書が刊行され、それを入手できたことで、嬉しいとともに、読書の思い出がよみがえってきました。
本が読めないからという理由で入社した会社を3日で辞め続けた青年が「本の雑誌」を創刊して47年。目黒考二、北上次郎、藤代三郎として書いて書いて書いてきた傑作原稿と友人知人、作家、編集者などからの追悼メッセージを合わせて収録。急逝した一人が三人男・目黒考二のメモリアルブックだ!
(『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』のカバー帯の紹介文より)
私にとっては、目黒考二さんというより、書評家の北上次郎さんに40年近くにわたってお世話になってきました。初めての出会いは、志水辰夫さんの『飢えて狼』(講談社文庫)の解説でした。
学生だった私は、当時はまだ、時代小説は全く読んでおらず、冒険小説とミステリー一辺倒でした。凄い!と思った本の巻末には、たいてい北上次郎さんの解説が載っていて、読後の興奮がいい塩梅に増幅されていき、お気に入りの書評家として記憶していました。
その後、冒険小説から時代小説へ関心が移り、北上さんの書評に触れることが一時期なかったのですが、2000年に刊行された、第7回時代小説大賞受賞作である、乙川優三郎さんの『霧の橋』(講談社文庫)で、北上さんの解説が載っていて狂喜乱舞しました。
いつの間にか、北上さんは時代小説も守備範囲に加えられていて、その後も、北原亞以子さんや宇江佐真理さん、飯嶋和一さん、佐藤雅美さんらの文庫で、たびたび楽しませていただきました。文庫派の自分にとって、解説はメインディッシュの後のデザートのように付いているとうれしいものでした。
つらつらと昔のことが思い出せたのも、本書の「北上次郎文庫解説リスト」のおかげです。現在判明しているだけで、435点の解説を書かれていたそう。
改めてリストを俯瞰すると、北上さんは冒険小説やミステリーばかりでなく、時代小説はもちろん、恋愛小説、青春小説、スポーツ小説まで、あらゆるジャンルをカバーする、エンターテインメント小説の書評家だったんですね。
北上さんによる2001年~2023年の年度別エンターテインメント小説ベスト10で挙げられている時代小説は、いずれもマストリードな作品ばかりで、大いに参考になります。
本書は、メモリアルブックという体裁ですが、目黒考二さんの傑作原稿を読み、いろいろな方の追悼文に目を通し、年譜を見ていると、目黒さんが四十年以上にわたってかかわってきた本の雑誌社が本好きの梁山泊のように思えてきます。
とくに、外れ馬券王、藤代三郎さんのエピソードは、馬券下手な自分にとって、面白すぎて、ニヤリと笑ったり、しみじみと共感したり、そして、最後の有馬記念予想で胸がジーンとなりました。なんで、これまで藤代三郎さんのエッセーをちゃんと読んでこなかっただろう、と悔いが残りました。
本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎
本の雑誌編集部編
本の雑誌社
2023年9月25日初版第一刷発行
本文イラスト:沢野ひとし
ブックデザイン:金子哲郎
●目次
目黒考二・北上次郎・藤代三郎の書庫
まえがき
【さらば、友よ! 追悼・目黒考二】
対談 僕らはこうやって雑誌を作ってきた 椎名誠・目黒考二
目黒考二への追悼二〇二三年五月十八日の弔詞 嵐山光三郎
「群ようこ」の名付け親 群ようこ
読書家・目黒考二 鏡明
映研時代の目黒先輩 保科義久
目黒考二のアパートを発見した日々 沢野ひとし
本の雑誌が創刊した夜 椎名誠
〈元社員座談会〉ベージュのスウェットの衝撃! 上原ゼンジ・野口道也・南雲まち子
〈座談会〉本の雑誌スッキリ隊目黒考二の仕事場整理に行く! 向井透史・岡島一郎・杉江由次・浜本茂
〈追悼のことば さようなら、目黒考二〉
木村晋介/菊池仁/宮本知次/太田篤哉/坂本克彦/川上賢一/新村勝弘/関口苑生/香山二三郎/高橋良平/西上心太/青山南/中場利一/千脇隆夫/澤田康彦/苅部庸二郎/福井昇/福井若恵/窪木淳子/内藤澄英/川田未穂/青木大輔/足立真穂/村山昌子/小塚麻衣子/佐久間文子/高畠伸一/高柳一郎/宇佐美智久/金子哲郎/松本雅明/加藤文/佐野信介/甲元美和子/石山早苗/渡辺慎吾/吉田伸子
「父よ」 目黒慎吾
帰ってこない、お父さん 目黒謙二
本の雑誌社「その日」までの記録 杉江由次
〈現役社員座談会〉社長時代はほとんど知らない人だった!
笹塚日記(最終回) 目黒考二
【目黒考二傑作選 酒と家庭は読書の敵だ!】
陸奥宗光の顔
恵が結婚する日
犬は家族の記憶である
読書計画は修正こそが愉しい
もう社員旅行なんか行かない
島田一男『魔道九妖星』を探せ!
全集の端本探しが愉しい
戦後エンターテインメント・ベスト10
〈コラム・今月のお買い物〉
【手袋】/【タイツ】/【文庫本ノート】/【USBメモリー】/【赤のサインペン】/【携帯用折り畳み目覚まし時計】/【近眼鏡】/【さらさらかき氷雪細工】/【ショルダーバッグ】/【五徳ナイフ】
二十歳で読んだブラッドベリの短編
血統の王様についていくぞ!
一日書店員体験記/書店員はタフでなければつとまらない
椎名誠のベスト10/カツ丼12コの衝撃
魚焼きロースターへの道
島崎藤村全集を読みたい!
〈極私的〉恋愛小説全集のすすめ
友よ、私の声が聞こえるか
『ふたりのロッテ』と草森紳一
【さらば、友よ! 追悼・北上次郎】
〈書評家座談会〉書評界の長嶋茂雄だった!? 池上冬樹・大森望・霜月蒼
北上次郎に学べ 杉江松恋
インフラとコンテンツ 新保博久
北上次郎あのことこのこと 夢枕獏
〈追悼のことば さようなら、北上次郎〉
北方謙三/大沢在昌/逢坂剛/横山秀夫/宮部みゆき/浅田次郎/澤田瞳子/森絵都/角田光代/三橋アキラ/東えりか/日下三蔵/山田裕樹/井垣真理/菅原朝也/江口洋/根本篤/大城武/大庭大作/佐々木日向子/岩田晋弘/桂星子
〈北上次郎ならこれ推すね〉
冒険活劇、極地、動物だ! 吉野 仁
心がほぐれてゆく物語 吉田伸子
良すぎない「いい人小説」 藤田香織
200ページから読め! 大森望
北上次郎文庫解説リスト
北上さんに解説原稿を頼むとき 山田剛史
【北上次郎傑作選 いやはや、すごいぞ、ぶっとぶぞ!】
日本冒険小説の10年を総括する
冒険小説の新時代を告げるすごい本が出たぞ
さらば愛しきわが西村寿行
懺悔の記/寿行と動物小説
日本ハードボイルド叢書よ、出てこい!
志水辰夫の10冊/へそ曲がり作家の着地点を見届ける!
大人の恋/屈折こそがキーワードだ!
初恋小説が切ない!
重松清と森絵都について
家族小説ベスト20はこれだ!
タイムトラベル小説ベスト10/永遠のベスト1が変わる時
ダメ男小説の傑作シリーズだ
秋場秋介が輝くダメ男五冠王である!
全国民必読の大河小説だ
いま、霜月蒼がすごい!
瀬尾まいこの10冊/一六歳の大田君を応援する!
「玉井喜作伝」よ、早く出てこい!
「海を渡った日本人」ブックガイド
綱淵謙錠『乱』とブリュネのこと
異色の歴史小説『乱』を読むべし!
エンターテインメント40年の40冊/『滅びの笛』から『永い言い訳』までの四〇年
【さらば、友よ! 追悼・藤代三郎】
〈競馬座談会〉四十六年間負け続けていた! 田口俊樹・山口晶・浜本茂
コラム・藤代三郎から2022年12月21日に届いた最後の有馬記念予想
追悼のことばさようなら、藤代三郎
馳星周/井崎脩五郎/亀谷敬正/吉田靖/茶木則雄/大島昭夫/石倉笑/鈴木学/三宅貴久/柴田章利
1504回の”偉大なるマンネリ” 利根川弘生
はずれ馬券を楽しみ尽くした人 須田鷹雄
3人とのこと 宍戸健司
野口道也・浜本茂、藤代師匠のリベンジ競馬に行く!
【藤代三郎傑作選 外れ馬券が人生だ!】
なぜチンチロリン小説がないのか!!
ギャンブル小説第2番
おすすめギャンブル本はこれだ
下手くそ馬券師が読む二冊の穴馬券戦術本
「馬の文化叢書」全10巻がどかーんと完結したぞ!2
野球小説への招待
本棚観賞クラブ設立のすすめ
部屋の中で読書なんてしていられないッ
藤代三郎名言集
【北上次郎・藤代三郎・他 おすすめ面白本コラム集】
君は燃えつきたいか/医学最前線の話は面白い/冒険小説最強トリオが出揃ったぞ
面白本●じっくり迫る男っぽい小説なのだ/面白本●次の直木賞は片岡義男で決まり!
五木寛之『重箱の隅』(文藝春秋)/スポーツと恋愛と
国産冒険小説戦線にどえらい新人が現われた/またまた片岡義男だ!
面白本●ふしぎな数式で最強馬を決定!/感動的なおすすめ伝記
こういうのを見逃してはいけない/これは愉しい本だぞ
ダーウィンの時代にタイムスリップするぞ/冒険アクションの快作
日本にもジョバンニが出現したぞ/今月のギャンブル小説/この勇ましさを見よ
本邦初!青映画の専門書が出たぞ/男の性と愛を新たな視点から考える快著
【北上次郎選 年度別ミステリーベスト10】
95年はこの一冊を読むためにあった!
白川道『海は涸いていた』が断固、ベスト1だ!
真保裕一『奇跡の人』がなぜ1位なのか
究極のリドル・ストーリー『秘密』に◎
この色彩感豊かなドラマに拍手
『夜が終わる場所』が自信のベスト1だ!
【北上次郎選 年度別エンターテインメントベスト10】
唯川恵『肩ごしの恋人』が堂々のベスト1だ
『流星ワゴン』は本年度最高の小説である
姫野カオルコ『ツ、イ、ラ、ク』を推す
2004年のベスト1は、『黄金旅風』だ
日本大衆小説の歴史はこの一作のためにあった!
大混戦を制したのは万城目学『鴨川ホルモー』だ!
バラエティ豊かな自信のベストテンだ!
志水辰夫の最高の衣裳を寿ぐ!
下川博『弩』が逃げ切りのベスト1だ!
〈2010年度〜2013年度 北上次郎の年間ベスト10〉
2014年は異色の恋愛小説『男ともだち』で決まり!
マイルールもぶっとぶ『朝が来る』がベスト1だ!
すべてが素晴らしい『みかづき』が1位だ!
遠田潤子『オブリヴィオン』の熱にひたる!
瀬尾まいこの幸せな小説がベスト1だ!
足立紳の最強のダメ男小説を見よ!
宇佐美まこと『夜の声を聴く』を一気読み!
2021年はこの小説を読むためにあった!
早見和真『八月の母』が意地のベスト1だ!
北上次郎・藤代三郎・目黒考二著作一覧
目黒考二・北上次郎・藤代三郎年譜 川口則弘
本文485ページ
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『本の雑誌の目黒考二・北上次郎・藤代三郎』(本の雑誌編集部編・本の雑誌社)