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ノマド調査官真冬、父ゆかりの能登で殺人事件の真相に迫る

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『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』|鳴神響一|徳間文庫

警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』(徳間文庫)を紹介します。

主人公の朝倉真冬は、金沢で生まれ育ち、警察庁のキャリア官僚となりました。が、現在は特別地方調査官に任命され、地方で発生した未解決殺人事件を調査し、当地の警察署内の不正を糺すことを命じられています。
警視という上級キャリア官僚にありながら、一人で本庁を離れて潜入調査を行う真冬の活躍を描く、「警察庁ノマド調査官」シリーズの第4弾です。本書では、真冬の生まれ故郷の石川県が舞台です。

「上層部の意向で証拠の破棄が行われた」。警察庁刑事局に匿名の密書が届いた。輪島中央署に捜査本部が開設された「鴨ヶ浦女子大生殺人事件」での不正捜査疑惑。告発を受け現地に飛んだ地方特別捜査官・朝倉真冬の胸はざわつく。輪島は、警察官だった父が暴力団員の凶弾に斃れ殉職した地だった。内偵を進めるうち父の事件との関連が見え隠れし始め……。大人気警察シリーズ、急展開。

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』カバー裏の紹介文より)

十二月初旬の日曜、真冬は、能登半島の輪島市を根城に調査が始まる前に、前乗りしてこの土日を実家に泊まることにして、金沢市の実家に帰省していました。
警察官だった父は、真冬が五歳のときに、暴力団員のが放った凶弾で殉職し、母も六歳のときに亡くなり、祖母で陶芸家をしていた朝倉光華に育てられました。

今回、明智光興審議官から下された命は、今年二月十五日に輪島市北部の鴨ヶ浦の入江に若い女性の遺体が浮かんでいた殺人事件に関する調査。
輪島中央署に捜査本部が解説されていましたが、10か月近く経っても犯人の目処すらついておりません。
警察庁に石川県警の捜査に不正があるというタレコミがありました。この殺人事件を調査し、石川県警の不正を突きとめることが、今回の真冬の使命です。

潜入捜査を行う輪島市は父が凶弾に斃れた地でもありました。

遺体発見現場の鴨ヶ浦散歩道で、目の前に飛ぶ牡丹幸にも似た白いかたまりに真冬は眼を見張りました。さまざまなかたちの大小の泡が風に舞い上げられて空中に漂ているのです。白い泡はすぐに地に落ちてきますが、風が吹くと再び白い泡は宙に舞います。真冬はしばしの間、この不思議な自然現象を飽かずに眺めていました。

陽光が白い泡をキラキラと輝かせた姿が、宙に舞うオブジェのようにきれいで、泡をつかまえようと、両腕を開いてつま先立ちした真冬は、六十前後の白髪交じりのグレーのコート姿の男に「さわらんほうがいい」と注意されました。

「こんにちは。この泡はなんですか」
 照れを隠して真冬は明るい声で訊いた。
「波の花だよ」
 明るい笑顔で男は答えた・
「波の花というのですか?」
「ああ、外浦の冬の風物詩だよ」

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』P.34より)

その男によると、泡の正体は、海のなかの植物性プランクトンの粘液や海藻で、それが海水と交じり合って波で攪拌されて岩に叩きつけられることによって泡が発生すると言います。さらに波の花のもととなっている海藻のなかには有毒成分を含むものもあり、各種ウイルスが存在したり、海中に輩出された人工物質の有毒成分を含んでいることあると。

その後、昼食を食べに行った輪島港近くの和食屋でも、その初老の男と遭遇します。
挨拶をしようとした真冬は、男が見ていたファイルに「輪島市鴨ヶ浦で女子大生の遺体が見つかる」という新聞記事のスクラップがあるのを見て驚愕し、詳しい話を聞く必要があると思いました。

「遊佐さんは、いまの捜査本部をどう思っていますか?」

(中略)

「こんな状態でいいと思っているはずがないだろう。ひとりの若く将来もある娘さんが殺されたんだぞ。全力を尽くして犯人を挙げるのが刑事の仕事だ。草の根を分けても犯人を捜し出すのが我々の責務じゃないか。そうでない者は刑事じゃない。警察官の本分を果たせないようなヤツは、さっさと辞めちまえばいいんだ」
 最初は激しく、最後は吐き捨てるように遊佐は言った。

(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件』P.68より)

真冬はその男遊佐(ゆざ)に、今の捜査本部をどう思うか訊きます。
真冬は、遊佐の捜査にかける思いを知り、正体を明かして、潜入捜査のバディとしての協力を求め、二人は事件についてもう一度調べ直していくことに。

内偵を進めていくと、思いがけない事実が浮かび上がってくると同時に、亡き父との奇妙な関連も見え隠れして……。

本シリーズの面白さは、真冬のお眼鏡にかなった現地の協力者(バディ)との捜査行に加えて、往年のテレビ枠「土曜ワイド劇場」のように、謎解きと事件の舞台となった土地の観光が楽しめることにあります。

宇出津港のと寒ぶりの刺身定食、あいまぜ、能登牛のステーキ、いしる汁、香箱ガニのカニ丼など、その土地ならではの美味しい料理も旅情を盛り上げてくれます。

猛暑日が続く中で、冬の能登をトリップしている気分で、一気読みしました。楽しい時間は、あっという間に過ぎるものですね。

警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 能登波の花殺人事件

鳴神響一
徳間書店 徳間文庫
2023年9月15日初版

カバーイラスト:爽々
カバーデザイン:アルビレオ

●目次
プロローグ
第一章 ふるさとへ
第二章 老刑事
第三章 能登島の謎
第四章 戦友
エピローグ

本文326ページ

文庫書き下ろし

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鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...