『蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや』|坂井希久子|時代小説文庫
坂井希久子(さかいきくこ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや』(時代小説文庫)を紹介します。
文庫書き下ろしシリーズの魅力の一つに、大好きな物語の世界にどっぷりと浸れることがあります。
「居酒屋ぜんや」シリーズは、お妙さんが主人公のファーストシーズンが全10巻あり、お花と熊吉の若い二人を中心に展開するセカンドシーズンも本書で4巻目になります。
ページを開くと、お妙や只次郎、お花に熊吉らに会え、心のこもった美味しい料理と居心地の良い「ぜんや」で常連客と楽しいひとときが過ごせるような気がします。
「ぜんや」の常連の旦那衆を狙った毒酒騒動。犯行はかつての同僚・長吉が関わっていると確信した熊吉は捜索に走る。一方、長吉に騙されて常連客に毒を出しそうになってしまったお花は、意気消沈、それでも迷惑はかけまいと気丈に振る舞っていたが――。忍び寄る悪意に、負けるな若人! 茗荷と青紫蘇を盛り、鰹出汁の吸い物をかけたちりめん山椒たっぷりの茶漬け、土用卵に土用蜆、そして只次郎特製卵粥と、心と体を温める、優しい人情と料理が響く、第四弾!
(『蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや』カバー裏の紹介文より)
寛政十二年(1800)閏四月。
先月、お花は柳森稲荷で熊吉の友達という、見知らぬ少年から生薬を受け取りました。それは毒にもなる附子で、砕いて酒の甕に入れると毒酒がつくれてしまうもの。
お花はそれを行李に入れたまま忘れていたため、店の常連の旦那衆の中から死人が出るという最悪の状況は免れました。
熊吉は、かつての同僚長吉が騒動に関わっていると考えて、その行方を必死で探しています。
一方、お花は、熊吉の友達だと言われただけでころッと信じてしまい、得体の知れない物を不用意に受け取ってしまった己の愚かさが悔やまれ、落ち込んで食欲もなくし、寝込んでしまいました。
熊吉は遠慮なく中に入り、夜具の脇に腰を下ろす。さりげなさを装って、手にした折敷を掲げてみせた。
「ほら見ろ、すげぇぞ。手つかずだった弁当を、お妙さんが作り替えてくれたんだ」
」
折敷の上には、大振りの飯茶碗が二つ。お花と熊吉の分である。
弁当の握り飯をまず七輪で炙り、ほどよく焼き目をつけたものの上に、ちりめん山椒をたっぷり振りかける。さらに茗荷と青紫蘇の千切りを盛り、擂り胡麻を少々。仕上げに鰹出汁の吸い物を回しかけた、茶漬けであった。
(『蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや』P.23より)
盗賊、蓑虫の辰、熊吉の声を盗んだと思われる七声の佐助らは、ぜんやの常連の旦那衆の店を狙っていて、その魔の手が近づいてきました……。
セカンドシーズで綴られきた話はサスペンスタッチで一気にクライマックスへ。
お花は、養い親の只次郎とお妙を「お父つぁさん」「おっ母さん」と呼び、本当の親と思えるのでしょうか?
本書では、試練に見舞われるお花が見せる、健気さと繊細な姿に目が奪われます。
ファンの一人として、幸せになってほしいと切に願いながら、最後のページを閉じました。あぁ、これぞ、「居酒屋ぜんや」ワールド、今回も堪能しました。
蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや
坂井希久子
角川春樹事務所 時代小説文庫
2023年5月18日第一刷発行
装画:Minoru
装幀:藤田知子
●目次
みのむし
土用卵
救いの手
蓮の実
別離
本文225ページ
「みのむし」「土用卵」「救いの手」「蓮の実」は「ランティエ」2023年1月~4月号に掲載された作品に、加筆修正したもの。
「別離」は書き下ろし。
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『すみれ飴 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第1作)
『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第2作)
『ねじり梅 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第3作)
『蓮の露 花暦 居酒屋ぜんや』(坂井希久子・時代小説文庫)(第4作)