『本所おけら長屋(二十)』|畠山健二|PHP文芸文庫
畠山健二(はたけやまけんじ)さんの文庫書き下ろし時代小説、『本所おけら長屋(二十)』が刊行されました。
帯には「ついに完結!」の文字が。
えーっと驚き、よく見ると小さく「……か?」と付いていました。
さらに見ると、「笑いと涙と感動の時代小説シリーズ、とうとう大団円!?」の文字まで。
いったい、どうなる?
これは読み始めるしかありません。
江戸は本所亀沢町にある「おけら長屋」には、落語の登場人物のような個性的な住人たちが揃い、今日もお祭り騒ぎだ。ある日、おけら長屋の万造と恋仲である聖庵堂の医師・お満に、長崎留学の話が持ち上がるも、最低三年は長崎で学ぶ必要があると聞き、思い悩む。一方、両親に捨てられたと思っていた万造に母親の手がかりが見つかり、長屋の住人たちは奔走するが……。大人気シリーズ、ついに完結か!?
(本書カバー裏の内容紹介より)
長崎留学の話で一人思い悩む、聖庵堂の医師お満のもとに、島田鉄斎と万造は、合口で刺された老博徒三津五郎を運び込みました。
湯屋の帰りに、竪川沿いで四人の男に襲われている三津五郎を助けたのでした。
これをきっかけに「おけら長屋」の面々が、やくざの明神一家をめぐる抗争に巻き込まれていきました。
というか、進んで騒動をあおり、渦中に入っていきます。
賭場での万松と、同じ長屋に住む、おバカながら博打の才がある金太のハチャメチャさ加減に捧腹絶倒です。
金太は出目を当て続け、目の前には駒が山のように積まれていく。万造は震えている。
「ま、松ちゃん、こ、こりゃ、どういうことでえ」
「おれの睨んだ通りでえ。金太は人間じゃねえ。ナマズは地震が来るのかがわかるっていうじゃねえか」
「な、なるほど……。その喩えが正しいかはわからねえがな」
「それに、金太には欲がねえ。博打なんてもんは、欲が心を惑わすんでえ」
(『本所おけら長屋(二十)』「その壱 おとこぎ」P.81より)
さて、おけら長屋の万造のもとを、下谷山崎町にある柊長屋のおとき婆さんが訪ねてきました。二十五年前、万造は二歳になる前に、柊長屋に捨てられ、鋳掛職人の源吉という男に育てられました。
おときによると、外出中に柊長屋を若い女お蓮に、二十五、六年前にこの長屋で男の子の捨て子がなかったかと声を掛けられたと。
両親に捨てられたと思っていた万造に、母親の手がかりが見つかり、物語は大団円へと向かうかと思われましたが……。
「私、少しは大人になったような気がします。世の中には辛い思いをしている人がたくさんいるんです。それを胸の奥に隠して、だれにも話さず、だれにも助けを求めず、じっと耐えて暮らしている。切ないです……」
お染は、お蓮の背中をそっと撫でる。
「そうさ。多かれ少なかれ、みんな同じなんだよ。だから、あたしたちは助け合って生きていくのさ。それが長屋の暮らしってもんなんだよ」
(『本所おけら長屋(二十)』「その弐 ひきだし」P.177より)
やっぱり、「おけら長屋」はゲラゲラとおかしくて、やがてホロリとさせられ、最後には幸福な気分へと感情が誘われます。
ああ、このハッピーな気分が、いつまでも何度でも味わえるようにと願って、ページを閉じました。
本所おけら長屋(二十)
畠山健二
PHP研究所・PHP文芸文庫
2023年3月15日 第1版第1刷
装丁:田中善幸
装画:倉橋三郎
目次
その壱 おとこぎ
その弐 ひきだし
その参 とこしえ
本文308ページ
文庫書き下ろし。
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『本所おけら長屋(二十)』(畠山健二・PHP文芸文庫)