この度、時代小説サイト「時代小説SHOW」の運営者として、理流は、東京新聞・中日新聞の年末の恒例企画「私の3冊」に寄稿しました。
2021年12月1日~2022年11月30日の期間に刊行された本の中から、おすすめの3冊を紹介する企画で、東京新聞には12月24日(土)の朝刊、中日新聞には12月25日(日)の朝刊にそれぞれ掲載されました。
200字という短い文字数では、伝えきれない思いがありましたので、少し補足をさせていただきます。
コロナによる生活スタイルの一変によって、われわれの読書を取り巻く環境は大きく変わってきました。また、2022年は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響による用紙など原材料の高騰に、製作、運搬コストの値上げも重なって、出版はますます厳しい状況に置かれています。
そんな中にもかからず、今年も多くの面白い歴史時代小説が刊行されました。
ファンとして嬉しい限りで、推したい作品も多い中で、「私の3冊」を選ぶというお題は楽しくもありスリリングでもありました。
歴史時代小説のファンの固定化、高齢化傾向という昨今の潮流に対して、新しいファンの創出と拡大が喫緊の課題と強く認識しています。
今年を象徴するとともに、2023年に大きな期待が膨らむ、3冊を選んでみました。
千葉ともこさんの『戴天』は、安史の乱に揺れる玄宗皇帝の時代を舞台に、ロマンあふれ血がたぎる歴史活劇です。デビュー2作目にして、キャラクター造形、ストーリー、描写に格段に腕を磨いた著者の勢いを感じます。久々に中国歴史小説界に現れた大型新人に注目しています。
2022年は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」のおかげで、かつてないほど鎌倉時代を描いた歴史時代小説が刊行されて活況を呈した一年。武士が中心に描かれる作品が多い中で、永井紗耶子さんの『女人入眼(にょにんじゅげん)』は、入内(后となるべき人が正式に内裏に入ること)をテーマに、北条政子と大姫の二人の愛憎の相克を中心に、女人たちの鎌倉を描ききった点が胸を打ちました。
ゲーム世代向けに、文庫書き下ろしというスタイルで発表したのが、直木賞作家今村翔吾さんの『イクサガミ 天』です。元剣客の主人公ら魅力的な猛者たちが続々参戦するデスゲームは劇画のような視覚的なイメージと強烈なリズムが特長で読みだしたら止められないエンタメ時代小説。普段は歴史時代小説を読まないような層にまで仕掛けていく、著者の冒険心に称賛を送りたいです。
現在の歴史時代小説に危機感を抱き、イノベーションを起こそうとする作家たちの活躍から目が離せません。
★2022/12/30追記
掲載紙(2022年年12月24日付東京新聞朝刊)が届きました!
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『戴天』(千葉ともこ・文藝春秋)
『女人入眼』(永井紗耶子・中央公論新社)
『イクサガミ 天』(今村翔吾・講談社文庫)