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幼き子どもたちに捧ぐ、母の愛情と祈り。心震える人情ばなし

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『ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子』|金子成人|双葉文庫

ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子(ちはんのこ)』(双葉文庫)をご紹介します。

女手一つで3人の子どもを育てる質舗の番頭お勝を中心に、根津権現門前町の裏店『ごんげん長屋』の住人たちが繰り広げる、人情長屋小説シリーズの第五弾。
一話完結の連作形式で、長屋周辺で起こった出来事や騒動が綴られていきます。

お勝の息子の幸助が、顔に傷をこしらえて帰ってきた。なんでも、不忍池の畔に暮らす〈池の子〉と呼ばれる孤児たちと喧嘩になったのだという。青物売りのお六が川に捧げた胡瓜がもとだと知ったお勝は。お六とともに孤児たちのもとに向かう。これを機に、お勝とお六は〈池の子〉たちとの絆を深めていくのだが――。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第五弾!

(カバー裏の内容紹介より)

文政二年(1819)六月のある日。
お勝の息子の幸助と同じ手跡指南所に通う男の子五人が、不忍池の畔で暮らしている子たちと喧嘩して、怪我をしました。
ごんげん長屋に住む青物売りのお六が川に投げ入れていた胡瓜を拾って食べていたことから喧嘩になったと言います。

お六は、水遊びをする子どもを溺れさせないでくれと、胡瓜を河童にあげていました。

「あいつら、河童に沈められたらいいんだ」
 幸助が、怒りにまかせて吐き出した。
 その幸助の頬をパチンと、お勝が叩いた。
「今の一言は、ちっとも偉くないよね、幸助」
 お勝の怒声に、幸助はガクリと肩を落とした。
 
(『ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子』「第四話 池畔の子」P.220より)

自分の子どもに人としてのふるまいを教え諭す、何気ない描写の中に、失われた人情を気づかせてくれます。

表題作は、お勝とお六ら大人が不忍池の畔で暮らす孤児たちに向ける眼差しが温かく、実があって、ジーンときて涙腺が決壊しました。

瀬知エリカさんの表紙装画で、帯に隠れている部分に胡瓜を咥えた河童が描かれているのが何とも愛らしくて可愛いです。

二組の片恋(片思いの恋)を描いた第一話、お勝の幼馴染が経営する剣術道場に奉公する元百姓の男が立ち合った敵討ちを綴った第二話。ごんげん長屋の住人が、一人の女を何人かの男たちで囲う安囲いの末に、女が身ごもった騒動の顛末を描いた第三話。

甘酸っぱい思いに駆られたり、痛快に思ったり、悲喜劇にくすりとしたり、名脚本家の手による物語で、お勝たちと一緒に事件や騒動に遭遇するのが何とも楽しいです。

「おっ母さんは、富士山に登ったことはあるの?」
 話題を変えたお琴が、問いかけてきた。
「あぁ、何度もあるよ」
 お勝は、大仰に胸を張って答えた。
「いつ」
 箸を止めたお妙が、眼を丸くした。
「一番最近は、十日前」

(『ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子』「第四話 池畔の子」P.211より)

六月一日は富士山開きの日。白い法被姿の富士講の一団を見かけた幸助からの問いかけから、ごんげん長屋のお勝の家でもにぎやかな声が飛び交いました。

お勝が昇った富士山は、神田富士と呼ばれる富士塚の一つでした。
富士山は江戸から離れた駿河国にあるため、路銀や日数の都合のつかず、行きたくても行けない人は、江戸の各所に作られた富士山を模した築山を登る富士詣でを行っていました。

神田富士は神田明神の境内にあり、根津の近辺にも、白山神社の境内にある白山富士や駒込富士がありました。

四季折々の江戸の風情や情景が会話の中に織り込まれているのも、本シリーズの魅力の一つです。本書で、江戸が少し身近に感じられました。
ずっと続けてほしい大切なシリーズです。

ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子

金子成人

双葉社 双葉文庫
2022年9月11日第1刷発行

カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラストレーション:瀬知エリカ

●目次
第一話 片恋
第二話 ひとごろし
第三話 紋ちらし
第四話 池畔の子

本文280ページ

文庫書き下ろし

■Amazon.co.jp
『ごんげん長屋つれづれ帖(一) かみなりお勝』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(四) 迎え提灯』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(五) 池畔の子』(金子成人・双葉文庫)

金子成人|時代小説ガイド
金子成人|かねこなりと|時代小説・作家 1949年、長崎県生まれ。脚本家。 1997年、第16回向田邦子賞を受賞。 2014年、『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』で、時代小説デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 八丈島から島抜け。兄を...