『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』|鳴神響一|徳間文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』(徳間文庫)をご恵贈いただきました。
『脳科学捜査官 真田夏希』シリーズをはじめとした、警察小説での躍進も目を見張るものがある著者の新機軸がこの「警察庁ノマド調査官」シリーズ。
旅情+警察ミステリーが楽しめる、シリーズ第2作です。
警察庁長官官房審議官直属の「地方特別調査官」を拝命した朝倉真冬。登庁はしない。勤務地は全国各地。旅行系ルポライターと偽って現地に入り、都道府県警の問題点を独自に探る「ノマド調査官」だ。今回彼女が訪れたのは、秋田県男鹿市。ナマハゲ行事のさなかに起きた不可解な殺人事件の裏側に、県警内部の不正捜査疑惑が。真相を探る真冬に魔手が迫る――。大好評シリーズ、待望の第二弾!
(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』カバー裏の紹介文より)
地方特別調査官を拝命して四カ月過ぎた朝倉真冬は、警察庁長官官房審議官の明智光興警視監の下命で、今年の2月19日の夜に男鹿市真山地区の万体仏と呼ばれる仏堂で起きた殺人事件の調査のため、秋田県男鹿市を訪れました。
被害者は55歳の秋田市在住の経営コンサルタント。事件から半年近く捜査を継続しながら、犯人の目星さえついていません。
ナマハゲの扮装をした犯人の目撃証言が1件あるだけでした。
捜査が進まない背景に、秋田県警本部と男鹿船川警察署に不正、あるいは綱紀のゆるみが存在するという匿名の密告投書がありました。
「ええ、博士課程後期の三年です。男鹿のナマハゲ面と世界各地の祭祀面についての研究を先行しています」
「浪岡さんですね。よろしくお願いします。わたし、フリーライターの朝倉真冬と申します」
真冬はフリーライターの名刺を渡した。(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』P.11より)
男鹿に入った真冬は、なまはげ館の展示室でたくさんのナマハゲを見ていました。そこで、ナマハゲについて専門的な知識を持つ、東北大学大学院生で、文化人類学を専攻する浪岡顕人と知り合います。
真冬はノマド調査官として現地に入るとき、旅行雑誌のフリーライターを名乗り、実際に2つの旅行雑誌にライター登録をしていました。
浪岡に案内されて犯行現場となった「真山の万体仏」で取材していると、県警捜査一課の進藤和美主任に会いました。
潜入捜査をしている真冬は、どこかで秋田県警の人間と接触するしかなく、探りを入れて和美に身分と調査の目的を打ち明けます。
「しつこくお尋ねして恐縮ですが、朝倉警視はどのようなお仕事で清水政司さんの事件を調査なさっているのですか」
和美の眼に緊張の色が宿った。
真冬は和美の目をしっかりと見返した。
その目には真摯な光が宿っているようにみえた。
「警察庁では捜査が進まないこと憂慮しているのです」
やんわりと真冬は答えた。(『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』P.67より)
一週間前に捜査本部に配属になったばかりの和美をバディに、真冬は潜入捜査を始めました。
真冬が拝命している地方特別調査官は、全国都道府県警にひそむ不祥事の実態を調査したうえで、軽微なものについては警告に留めて、都道府県警内の自浄作用を促すことを目的として設置されました。警察キャリア官僚から外された真冬は自嘲的に、ノマド調査官と呼んでいます。
その特性を生かして、初回(『網走サンカヨウ殺人事件』)では網走、今回はナマハゲで有名な男鹿が舞台です。
真冬と一緒に、現地の自然と文化、歴史からグルメまで観光客気分で旅情に浸れます。
本書を読みながら、何度も男鹿市の地図を見たり、画像検索をしたりして、旅行の計画を練るように楽しいひと時を過ごしました。
古くて新しい正統派の「旅情警察ミステリー」の醍醐味が堪能できる、楽しみなシリーズです。
2時間枠のテレビのドラマは減ってしまいましたが、本書を原作にドラマ化してほしいなあと強く思いました。
男鹿半島の風光明媚な地を想像し、ドラマ化のキャスティングを考えて妄想に耽っています。
『斗星、北天にあり 出羽の武将 安東愛季』で描かれた戦国武将の安東愛季や江戸の民俗学者菅江真澄の名前が出てきて、歴史ファンも喜ばせてくれます。
警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件
鳴神響一
徳間書店 徳間文庫
2022年9月15日初版
カバーイラスト:爽々
カバーデザイン:アルビレオ
●目次
プロローグ
第一章 霊山
第二章 五風
第三章 男鹿路
第四章 寒風
第五章 闇夜
エピローグ
本文343ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 網走サンカヨウ殺人事件』(鳴神響一・徳間文庫)
『警察庁ノマド調査官 朝倉真冬 男鹿ナマハゲ殺人事件』(鳴神響一・徳間文庫)
『斗星、北天にあり 出羽の武将 安東愛季』(鳴神響一・徳間文庫)