『脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ』(角川文庫)をご恵贈いただきました。
タイトルのマゼンタ(magenta)は、色の一つ。明るく鮮やかな赤紫色で唐紅にちなんで名付けられています。濃いピンクで、カラー印刷のインクの一つ(CMYKのM)です。
このシリーズは、2巻目以降、タイトルにすべて色名が使われています。
本書は、心理分析官、真田夏希が難解な事件に遭遇して活躍する警察小説「脳科学捜査官 真田夏希」シリーズの第14弾です。
警察庁のサイバー特別捜査隊の隊員に選ばれた心理分析官の真田夏希は、着任早々、日本を揺るがす犯罪者と対峙することになった。エージェント・スミスと名乗る犯人は、銀行ATMや、交通系決済などシステム障害を起こし、サイバー特捜隊を窮地に陥れる。そして、隊長の織田とともに犯人を追う夏希は、巧妙な罠にかかり、囚われの身となってしまった。果たして2人は、絶体絶命の危機を脱し、犯人に迫ることができるのか。
(本書カバー裏紹介より)
前作の『ナスティ・パープル』から続く、エージェント・スミスと名乗るクラッカーとサイバー特捜隊の対決を描いた物語の後編に相当するのが本書『イリーガル・マゼンタ』。
神奈川県警の心理分析官の真田夏希は、警察庁に新設されたサイバー特別捜査隊に異動しました。
夏希がよく知る人物で、本シリーズで重要な登場人物、織田信和が隊長に任命され、一昨日から銀行システムや交通系決済システムを攻撃した敵と戦うため、夏希の力が必要だと。
しかしながら、映画『マトリックス』にちなみ、エージェント・スミスと名乗るクラッカーは、サイバー特捜隊の予想を上回る能力をもっていました。
犯人たちのアクセス元を突き止めた織田と夏希は、犯人確保へと向かいますが、それはスミスが仕掛けた罠でした。
スミスに拘束されて身体の自由を奪われた二人に、絶体絶命の危機が迫っていました。
真田夏希は赤い文字が0になる瞬間に堪えられず、両目を固くつぶった。
頭を下にして身体がぐるぐるとまわっているような錯覚に襲われる。
全身の筋肉が引きつり背中に激しい痛みを覚えた。
轟音とともに全身が吹っ飛ばされる。(『脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ』P.5より)
『ナスティ・パープル』で、犯人により拘束されて、時限爆弾を仕掛けられて、絶体絶命の窮地に陥った織田と夏希。
事件の結末が知りたくて、前作から本作発売までの1か月間が待ち遠しかったです。
「僕は覚悟しています。この後、自分の恥が全国にさらされ、サイバー特捜隊の名誉が地に堕ちることになるでしょう。僕は耐えなければならない」
織田の身体がかすかに震えている。悔しさをこらえているのだろう。
こんなに何度も落ち込む織田など見たことはない。(『脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ』P.128より)
警察庁のエリート官僚で、新設のサイバー特別捜査隊の隊長に登用された織田は、最恐のクラッカー犯罪者に翻弄され負けてしまい、落ち込みます。
しかしながら、怜悧な頭脳と精神的な安定感をもつ織田は、『一週間以内にスミスを謙虚しろ。それができなかったら覚悟を決めろ』と上司から期限を切られ、すぐに落ち込みkら回復し、新たに闘志も燃やします。
そんな織田隊長を見て、夏希をはじめ特捜隊の隊員たちも大いに奮い立ちます。
本書では夏希よりも織田にスポットライトを当てられることが多く、随所に織田の美点が散りばめられています。極めつけは登場人物の一人が織田に言う、次の言葉です。
「(前略)あんたって人間そのものがきれいごとでできてる。きれいごとを真正面から生きている。それでいて警察官なんだからイヤになるね。……」
脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2022年8月25日初版発行
カバー写真・デザイン:舘山一大
●目次
第一章 追跡
第二章 混迷
第三章 威迫
第四章 清澄
本文295ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)(第1弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル』(鳴神響一・角川文庫)(第13弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 イリーガル・マゼンタ』(鳴神響一・角川文庫)(第14弾)