『脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル』(角川文庫)をご恵贈いただきました。
タイトルのナスティ(nasty)には、ひどく嫌な、不快な、汚らしい、意地の悪い、たちの悪い、卑劣な、厄介な、などの意味があり、犯罪者を修飾しているのでしょうか。
本書は、神奈川県警の心理職特別捜査官、真田夏希が難解な事件に遭遇して活躍する警察小説「脳科学捜査官 真田夏希」シリーズの第13弾です。
今回、神奈川県警で凶悪事件を解決に導いてきた夏希は、何と警察庁のサイバー特別捜査隊へ異動となります。
神奈川県警の心理分析官・真田夏希は、上司から驚愕の異動を伝えられた。警察庁に新設されたサイバー特別捜査隊の隊員に夏希が選ばれたというのだ。戸惑いながら特捜隊の庁舎へ向かう夏希。だが、そこで待ち受けていたのは、夏希がよく知る人物――織田信和だった。特捜隊の隊長に任命された織田は、一昨日から銀行システムや交通系決済システムを攻撃した敵と戦うため、夏希の力が必要だというが……。書き下ろし警察小説。
(本書カバー裏紹介より)
月曜の朝、職場の科学捜査研究所に向かうため、横浜市営地下鉄ブルーラインの舞岡駅に向かった夏希は、駅でPASMOやSuicaなどの交通系ICカードが使用できなくなるトラブルに見舞われました。券売機で切符を買って入場することになりました。
出勤して早々、所長の山内警視に呼ばれました。
重大なサイバー犯罪を直接操作するために、警察庁に新設されたサイバー攻撃特捜隊に選ばれ、神奈川県警察を離れて、警察庁警察官の身分になることが告げられました。
夏希は、立場も勤務先も、勤務時間も変わり、今まで神奈川県警で心が通じ合える仲間と仕事をしてゆけなくなることに動揺しあらがいました。いままでのように現場で警察犬のアリシアと会えなくなることも淋しく思い、感情的になる夏希ですが、警察組織の一員である限り、異動は甘んじて受けなければなあない、ましてその能力を見込んでの異動であると、山内所長と上司の中村科長に諭されて、ようやく、承諾の意思を伝えました。
その日のうちに、警察庁サイバー特別捜査隊に異動した夏希を迎えたのは、これまで捜査で何度も一緒になった警察庁の警備局理事官の織田信和でした。
織田は、四月一日付けで新設のサイバー特別捜査隊長に任命されていました。
「次に伺いたいのですが、わたしは心理分析官です。五島さんようなサイバー捜査官ではありません。また、織田さんとは違って国家の安全保障についても素人です。それなのに、どうしてここに異動になったんですか」
いささか詰めるような口調になってしまったが、織田は穏やかな表情を崩さずに口を開いた。
「真田さんの優秀な能力が必要になったのです」
「どんな能力ですか」
「対話の力です」(『脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル』P.53より)
すでに事件は発生していました。
エージェント・スミスと名乗るクラッカー(サイバー犯罪者)が、一昨日と昨日大手都市銀行三行のシステム障害を発生させました。
エージェント・スミスは、さらに今朝、交通系電子マネーの決済システムにクラッキングしてシステム障害を起こしたのでした。
映画『マトリックス』の登場人物を気取った犯人の狙いは何なのでしょうか?
夏希は、サイバー特別捜査隊のかもめ★百合として、犯人と対話を始めました。
いがい
近年急増するサイバーテロ犯罪の脅威とワールドワイドに広がる被害の甚大さについて、真田が夏希に説明する形で読者にも解説してゆきます。
そんな中で、犯人は織田らサイバー特別捜査隊の裏をかいて、思いもかけない方法で攻撃を次々に仕掛けてきます。
物語の後半、息も吐かせぬ、めくるめく展開から目が離せません。
異動によりゲームの場が変わったことで、これまでの事件解決の必勝パターンが使えません、事件がどのよう進んでいくのが予測不能で、ハラハラドキドキの面白さがあります。
実際に、中小規模の病院がサイバー攻撃により、カルテが改ざんされ経営に甚大な被害を受けたというニュースを見たこともあり、今までネットのセキュリティについては必要最低限の対応で済ませてきましたが、読んでいくうちにサイバー攻撃が怖くなり、パスワードをより強固なものに変えようと真剣に思いました。
脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2022年7月25日初版発行
文庫書き下ろし
カバー写真:Ethan Hundertmark/ EyeEm/ Getty Images
カバーデザイン:舘山一大
●目次
第一章 新開
第二章 出発
第三章 疑念
第四章 陥穽
本文277ページ
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『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)(第1弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 ナスティ・パープル』(鳴神響一・角川文庫)(第13弾)