『拙者、妹がおりまして(5)』|馳月基矢|双葉文庫
馳月基矢(はせつきもとや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『拙者、妹がおりまして(5)』(双葉文庫)を紹介します。
本所相生町に住まう御家人白瀧勇実(24)と、妹千紘(18)、白瀧家の屋敷の隣にある剣術道場の跡取り息子の矢島龍治(22)。そして、猪牙舟から大川に落ちたところを勇実に助けられた娘亀岡菊香(20)。四人の若者の日常の出来事を描く青春時代小説の第5弾です。
殺しを繰り返していた女装の盗人・お七こと吉三郎、龍治に返り討ちにあい、川に飛び込んだ吉三郎は生きていた。手負いの身で復讐の機会を狙う吉三郎は、自分と同じく白瀧家に恨みを持つと踏んでおえんに近づき、その長屋に転がり込んだ。寄る辺なき二人の危うげな同居は、やがてその傷だらけの心に思わぬ変化を生んでいく。そしてある時、おえんの危機を知るや吉三郎は……。全4話を収録。若者が夢を持ち、恋をし、時に傷つきながら成長する。巻を追うごとに目が離せなくなる江戸の青春群像、せつなく胸に迫るシリーズ第五弾!
(『拙者、妹がおりまして(5)』カバー裏の内容紹介より)
三百石取りの旗本乙黒家の蔵から見出された一振の短刀がもとでかどわかし騒ぎ起きてしまいました。騒動は、勇実や龍治、勇実の手習い所の筆子たちの活躍があって事なきを得たものの、由来のわからない担当の扱いに乙黒家は困惑していました。
文政五年(1822)八月のある日。
龍治の仲立ちで、当代きっての名工と知られる刀鍛冶・水心子正秀を訪ねることになりました。
日本橋浜町にある山形藩中屋敷に鍛冶場をもつ水心子のもとに、勇実と龍治と千紘に加えて、短刀を収めた刀箱を手に、乙黒鞠千代とその兄宗之進がやってきました。
水心子はゆったりと一同を見回すと、刀箱のそばに立つ鞠千代に目を留めた。
「あなたが、その短刀のためにかどわかしに遭ってしまったという神童どのかな?」
「神童とは畏れ多いおっしゃりようですが、わたくしが、龍治先生を通じて短刀の目利きをお願いした乙黒鞠千代です。こちらが兄の宗之進でございます」(『拙者、妹がおりまして(5)』P.43より)
著者の刀剣への並々ならぬ思いが込められた話が展開していきます。
初めての者にわかりやすく基本から、刀剣の鑑賞方法を案内しています。
別の日。
千紘と、質屋の跡取り息子の梅之助、御家人の子大平将太は、幼馴染みです。千紘は、将太とともに、先月の祝言を挙げた梅之助にお祝いを言うために、質屋を訪れました。
そこで、客としてやってきたおえんを見かけました。
三十六のおえんは、兄勇実がかつて恋い焦がれていた女性で、今は馬喰町の旅籠に勤めています。
「おえんさんさぁ、子供育ててるらしいよ」
「え、独り者でしょ? 隠し子?」
「拾ったんだって。あの人の長屋、うちと近いからさ、隣の部屋に住んでる鋳掛屋に聞いたのよ。ほら、鋳掛屋ってさ、歩き回って仕事してるから噂にくわしいのよね」(『拙者、妹がおりまして(5)』P.84より)
おえんの勤める旅籠沢姫屋ではおかみや女中たちが、美人で色っぽい新入りのおえんをいじめたり陰口で笑い合ったりしていました……。
おえんが一緒に住んでいるという子供が、傷を負って逃げていた女装の盗人・お七こと吉三郎らしく、物語は先行きの予測不能な混沌としていきます。
今回の最大の見どころは、白瀧家に因縁を持つ、おえんと吉三郎の合体。いかなる化学反応を起こして、どんな結末が待っているのでしょうか。
千紘と龍治、勇実と菊香。二組の男女のじれったくなるような恋模様も大いに気になるところです。
その動向から目が離せません。
拙者、妹がおりまして(5)
馳月基矢
双葉社 双葉文庫
2022年4月17日第1刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラストレーション:Minoru
●目次
第一話 いにしえより後世へ
第二話 己の心に正直に
第三話 叶わざる望み
第四話 鬼が笑うと言うけれど
本文242ページ
文庫書き下ろし
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『拙者、妹がおりまして(1)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(2)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(3)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(4)』(馳月基矢・双葉文庫)
『拙者、妹がおりまして(5)』(馳月基矢・双葉文庫)