『本所おけら長屋(十八)』|畠山健二|PHP文芸文庫
畠山健二(はたけやまけんじ)さんの人情時代小説、『本所おけら長屋(十八)』を紹介します。
累計150万部突破という多くのファンをもつ人気シリーズの最新刊第18巻です。
本所亀沢町にある、貧乏長屋「おけら長屋」の住人たちが巻き起こす、笑いと涙の珍騒動。上質の人情喜劇や落語のように楽しめるお気に入りシリーズの一つです。
金はないけど情はある。個性豊かな店子が揃い、「おけら長屋」は毎日がお祭り騒ぎだ。黒石藩の藩主・高宗の側室問題に、長屋の住人たちが力を貸すことになり……「あやつり」、暴力亭主から逃げたお竹を長屋にかくまうことになるが、魚屋の辰次が彼女に惚れてしまい……「たけとり」、八百屋の金太に白犬・銀太の相棒ができるが、銀太には子供を襲った疑いがかかっていて……「きんぎん」など、四編を収録。
(本書カバー裏の内容紹介より)
第一話「あやつり」では、島田鉄斎とおけら長屋が関わりのある、黒石藩一万石の藩主津軽高宗に、側室を迎える話が起こります。
高宗には十七歳になる正室玉姫がいて、いまだに寝所をともにすることがなく、嫡男がありません。案じた家臣が側女を置くことを勧め、殿に引き合わせます……。
「(前略)島田殿が暮らす長屋には、何と申しますか、その……、恥知らずで、酔っ払いで、金に汚くて、無鉄砲で、何をしでかすかわからない者たちが住んでいるのです」
「人でなしではありませんか」
「はい。でも、楽しいというか、面白いというか、とにかく、いざというときに頼りになるのです。私たち武家などには思いもよらぬ手立てを思いつき、それを実際に成し遂げてしまうのです。殿は、その者たちのことが大好きで、島田殿や、その者たちに会いたくて仕方なのです」
(『本所おけら長屋(十八)』「その壱 あやつり」P.30より)
側室の話に動揺する玉姫は、侍女志桜里を介して、殿の近習をつとめる田村真之介から、おけら長屋の話を聞いてしまいます。
第二話の「たけとり」では、暴力亭主から逃げ出してきた美しい女・お竹をおけら長屋でかくまうことになり、さあ大変。
殴る蹴るの暴力を受けたお竹に同情する住人たち、魚屋の辰次のように惚れてしまう者まで出ます。
竹取物語になぞらえて展開する物語にロマンティックな気分に浸れます。
第三話の「さいころ」は、おけら長屋らしい、スラップスティック時代小説。
聖庵堂で医師として働くお満の父、薬種問屋木田屋の主人宗右衛門とおけら長屋の大家、徳兵衛の友人同士が、酒を酌み交わした末の恋バナが発端で、大騒ぎに。
「とにかく、この長屋で暮らしているとね、騒動や厄介なことに巻き込まれて、やめときゃいいのに首を突っ込みたくなっちまってね、死のうだなんて考える暇がないんですよ。笑ったり、泣いたりで忙しいですから」
お染はそう言うと、自慢げに笑った。
(『本所おけら長屋(十八)』「その四 きんぎん」P.277より)
今回、いちばんのお気に入りの話が「その四 きんぎん」です。
おけら長屋に暮らす、棒手振りの八百屋の金太は、知的障害を抱えていて、万蔵や松吉からは「馬鹿金」や「抜け金」などと言われましたが、縄張りの本所界隈では人気者でした。
その金太が、ある日、白い犬・銀太と出会い仲良くなりました。
ところが、その犬には油問屋の息子を噛んで怪我をさせたという疑いが掛けられました。
金太と長屋の面々との頓珍漢なやり取りが可笑しくて、それでいながら、金太の純真さがにじみ出ていて、ジーンと心が温められます。
ますます、このシリーズの魅力の沼にはまっていきます。
本所おけら長屋(十八)
畠山健二
PHP研究所・PHP文芸文庫
2022年4月6日 第1版第1刷
装丁:田中善幸
装画:倉橋三郎
目次
その壱 あやつり
その弐 たけとり
その参 さいころ
その四 きんぎん
本文300ページ
文庫書き下ろし。
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『本所おけら長屋(十八)』(畠山健二・PHP文芸文庫)