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苦節三十年。正紀は、高岡藩士の仇討ちを助太刀する!?

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『おれは一万石 花街の仇討ち』|千野隆司|双葉文庫

おれは一万石 花街の仇討ち千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『おれは一万石 花街(かがい)の仇討ち』(双葉文庫)を紹介します。

本書は、崖っぷちの一万石小大名、下総高岡藩井上家の世子となった正紀の奮闘を描く、文庫書き下ろし時代小説「おれは一万石」シリーズの第20巻。

先代藩主正森の頃から三十年にわたって仇を追っているという高岡藩の下士と出会った正紀。その侍に本懐を遂げさせるべく助力することになった。
一方、北町奉行所高積見廻り与力の山野辺は、女衒のもとから恋仲の娘を奪い返そうとする、貧乏御家人の三男坊に力を貸す、関わりのなさそうなこの二つの事件は、意外なところで交わり――。シリーズ第20弾!

(本書カバー裏の紹介文より)

寛政二年(1790)十一月。
地震後の復興の様子を見に町に出た正紀は、両国広小路で仇討ち騒ぎに出くわしました。

「その方は、元下総高岡藩士の武藤兵右衛門であろう」
 呼ばれた老侍は、何事だという顔をしていた。声をかけた方の侍は、さらに続けた。
「拙者は、その方に斬られた高岡藩士高坂太兵衛の弟市之助である。ここで会ったが百年目、尋常に勝負をいたせ」

(『おれは一万石 花街の仇討ち』 P.18より)

市之助は、三十年にわたって仇を探し求めた末に巡り合い、逆上していませいた。
ところが、この老侍は三河岡崎藩の家臣で、仇の証拠である疱瘡の傷痕もなく、仇とは別人であることが判明しました。

正紀は、市之助に声をかけて三十年前の出来事について聞き取り、その本懐を遂げさせるべく助力することになりました。

一方、地震のあった翌日、北町奉行所の高積見廻り与力の山野辺蔵之助は、浜町河岸界隈を検めながら歩いていました。

船着場に通じる河岸道を、若い娘を連れた、堅気には見えない五十年配の町人と深編笠の主持ちとおぼしい侍の三人組を見かけました。

すると、若侍が船着場へ駆け下りていき、刀を抜いて小舟に乗ろうとする三人を妨げようとしますが、深編笠の侍に反撃されて、左の二の腕をざっくりとやられました。
若侍が間違いなく斬殺されると思った山野辺は、「待たれよ」と声をかけて助けに入りました。

三人を乗せた小舟は船着場を滑り出ていきました。山野辺は舟を追わずに、若侍の止血をしたうえで、近くに医者へ連れて行きました。

「それがしは、千寿殿を奪い返そうといたしました」
「あの娘だな。攫われたのか」
「いや、それは」

(『おれは一万石 花街の仇討ち』 P.18より)

手当を済ませた後で、無役御家人の三男大志田参之助と名乗る若侍に話を聞くと、歳は十九で部屋住み、連れていかれた娘千寿は同じ無役御家人馬橋正兵衛の次女で十八歳、二人は恋仲だと言います。町人は女衒の俣蔵で、侍は家禄九百石の旗本で、直参相手に金貸しをしている、北澤大膳の用人衣山令助だと。

馬橋家では、北澤から金を借りたが返すことができず、御家人株を手放すか娘を売るかの判断を迫られ、御家を守るために千寿を手放したのでした。

証文があってのことで、女衒が娘を連れて行くことは御法に適っていて、それに対して刃をかざしたとなれば、処罰されるべきは参之助のほうになります。
山野辺は捕らえる気になれないばかりか、親に久離を願う文を残して家を出た参之助に同情し、八丁堀の屋敷を連れて行きました。

今回の読みどころの一つは、一見関わりのなさそうな二つの出来事が意外なところで交わっていく、ストーリー展開の絶妙さにあります。

また、八十一歳になっても、常に江戸と銚子を行き来する、スーパー御隠居、前藩主正森が登場するのも何とも楽しみです。

おれは一万石 花街の仇討ち

千野隆司
双葉社 双葉文庫
2022年3月13日第1刷発行

カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう

●目次
前章 二つの事件
第一章 仇と金貸し
第二章 張見世の灯
第三章 三十三間堂
第四章 消えた駕籠
第五章 因縁の勝負

本文270ページ

文庫書き下ろし

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『おれは一万石 花街の仇討ち』(千野隆司・双葉文庫)(第20作)
『おれは一万石』(千野隆司・双葉文庫)(第1作)

千野隆司|時代小説ガイド
千野隆司|ちのたかし|時代小説・作家 1951年、東京生まれ。國學院大學文学部文学科卒、出版社勤務を経て作家デビュー。 1990年、「夜の道行」で第12回小説推理新人賞受賞。 2018年、「おれは一万石」シリーズと「長谷川平蔵人足寄場」シリ...