『六莫迦記 いつの間にやら夜明けぜよ』|新美健|ハヤカワ時代ミステリ文庫
新美健(にいみけん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『六莫迦記(ろくばかき) いつの間にやら夜明けぜよ』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介します。
本書は、二百石取りの小身幕臣葛木家の六ツ子が、ハチャメチャな騒動を繰り広げる、ユーモア時代小説シリーズの第3弾です。規格外れの六人の莫迦侍が繰り広げる本格的なスラップスティック・コメディが楽しめる時代小説。
待ちに待った一年ぶりの新作です。
長旅から江戸にもどった六ツ子の眼前で、井伊大老が襲撃された。兄弟は必死に逃げ出すも着いた先が首謀の水戸藩に通じた上屋敷。どさくさに六兄弟は朝廷の密勅を託されたからたいへん、これでは幕府から狙われてしまう。高杉晋作に利用されたり、西郷隆盛と対峙したり、坂本龍馬とともに逃げ惑ったり……。苦難の連続でも六人の莫迦侍たちは、常人には想像もできない方法で歴史的偉業をなす!? これぞ裏幕末維新時代小説。
(本書カバー帯の紹介文より)
葛木家の六ツ子といえば、北本所の外れで知らぬ者はいない、天下無双の穀潰し。
長子逸朗は天下無双の莫迦、次男雉朗は傾奇好きの莫迦、三男左武朗は撃剣莫迦、四男刺朗は葉隠莫迦、五男呉朗は算盤尽くの莫迦、末弟碌朗は町人かぶれの莫迦。
天下御免の大莫迦ながら、惚けた顔に似合わぬ、幕府の屋台骨を揺るがしかねない秘中の秘事を背負っていました。
2巻で、とある事情から江戸から旅に出された六ツ子たちが、奇天烈な大冒険の末に江戸に帰ってくるところから物語は始まります。
昨日、横浜の港に上陸した六人は、江戸入りの手前の品川宿に泊まりましたが、無一文のため、やむなく宿代を踏み倒すべく、夜が明けないうちに出立しました。
海原から吹きつける風雪に横っ面を叩かれ、たまらず東海道を外れた。右へ左へと折れ曲がる路地を迷い歩いた末に、御城の濠沿いに出たところだ。
「とまれ、あとひと息よ」
長兄の逸朗は、鼻汁を垂らしながら気勢をふり絞った。
「秘奥の山中で伝説の龍を退治し、お家騒動を見事にとり裁き、艱難辛苦の旅を微笑みひとつで乗り越えた我らが六ツ子ぞ。天よ叫べ、地よ吠えろ。我らの凱旋を讃えよ。見ておれ、おれは血わき肉躍る道中記をものし、当代一の人気戯作者となってやる!」(『六莫迦記 いつの間にやら夜明けぜよ』 P.18より)
六ツ子たちは、桜田御門外で井伊大老の襲撃の現場に遭遇してしまいました。
江戸に入って早々に、ろくでもない目に遭いましたが、なんとか逃れて本所外れの屋敷に戻ってみると、そこは両親ばかりか誰も住んでおらず、荒れ果てていました。
そして、木戸に、風雨にさらされて墨跡が薄くなった二首の和歌が残されているだけでした。
両親の行方も気になりながらも、金もなく、住むところを失った六ツ子たちは、大老襲撃一味の水戸浪士と知り合い、ある藩の上屋敷に厄介になることになりました。
六ツ子は、本書の表紙に描かれている坂本龍馬をはじめ、勝麟太郎、桂小五郎、高杉晋作、西郷吉之助と、幕末に大いにやらかした英雄たちと知り合い、常人には考え付かない方法でその偉業に陰でかかわっていきます。
よく知られている著名人の史実と、六人の莫迦侍がもたらすハチャメチャさぶりが絶妙なバランスで交じり合い、固くなった頭を刺激してくれるユーモア時代小説です。
読み終わった後、六莫迦たちがたまらなく愛しくなりました。
六莫迦記 いつの間にやら夜明けぜよ
新美健
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年2月15日発行
カバーイラスト:川上和生
カバーデザイン:早川書房デザイン室
●目次
序 穀潰しの帰還
一話 天誅は怖いよ
二話 やらかし天狗
三話 奇人変人鬼人に異人
四話 信濃ずんどこ放浪記
五話 六ツ子の回天
六話 莫迦も杓子もエエヂャナイカ
結 大団円
本文270ページ
文庫書き下ろし
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『六莫迦記 これが本所の穀潰し』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1弾)
『六莫迦記 穀潰しの旅がらす』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2弾)
『六莫迦記 いつの間にやら夜明けぜよ』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第3弾)