『いついつまでも 薫と芽衣の事件帖』|倉本由布|ハヤカワ時代ミステリ文庫
倉本由布(くらもとゆう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『いついつまでも 薫と芽衣の事件帖』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を紹介いたします。
『寄り添い花火』、『風待ちのふたり』に続く、「薫と芽衣の事件帖」シリーズの第3弾です。
札差の娘にして岡っ引きの薫と、同心の娘なのに薫の下っ引きをする芽衣、ともに十五歳の二人が様々な騒動の謎を解き明かす、大江戸少女捕物小説です。
札差の娘で岡っ引きの薫と、同心の娘なのに薫の下っ引きをする芽衣はいつも一緒――だったはずなのに。ある探索の最中、芽衣が自分のせいで怪我を負ってしまったと薫は悔いていた。周りから“岡っ引きごっこ”と揶揄され、御用の筋はもうやめようと考える。そんな時、薫のいる札差で奉公人の娘が大事に貯め込んでいた銭が忽然と消える。薫は真相を探ろうとするが、隣には芽衣はおらず……薫と芽衣、想い合う二人の友情事件帖。
(カバー裏の内容紹介より)
第一話「いつも、いつまでも」で、薫と芽衣は、芽衣の兄で北町奉行所見習い同心の内藤三四郎から、日本橋本町にある薬種問屋で起こった不思議な出来事の探索してほしいという依頼が持ち込まれました。
薬種問屋の隠居夫婦の寝室で、真夜中に何者かが歩き回る音が聞こえますが、薬種問屋の隠居が目を開けて確かめても何も見えず、物音が聞こえるだけです。盗人なのか何なのか、夜中に薬種問屋に泊まり込み、物音の正体を確かめました。
「おふたりこそ、本当に仲がよろしくてうらやましいことです。よき友を得るのも、よき伴侶を得るのも、どちらも同じく得がたい、ありがたい幸せですよ。いつまでも、今のままのおふたりでいらしてくださいね」
「はい」
元気な芽衣の声、落ちついた薫の声が、ぴったりと重なった。
(『いついつまでも 薫と芽衣の事件帖』P.53より)
夜中に何度に籠って張り込みを続ける薫と芽衣に、隠居が掛けた言葉ですが、本書のタイトルを連想させます。
「寄り添う花火」「風待ちのふたり」に続く、時代小説らしからぬ、少女小説っぽいキュートでありながら、最終回っぽい「いついつまでも」というタイトル。どんな展開をするのか、ドキドキします。
第二話の「振りはじめ」では、薫は三四郎から、酒に酔った父からの暴力に悩む娘お志那を匿うことを依頼されます。
娘を匿うだけで、十手を持ってな本格な捕物に関わらせてもらえないことが不満の薫ですが、お志那の父に会いに行き、やがて別の事件に関わることに。
「岡っ引きの薫さんと、下っ引きの内藤芽衣――」
「……なんですか?」
「子どもの遊びは、そろそろやめにしたらどうかね?」
「遊びではないよ」
薫は胸を張った。遊びで探索に当たったことなど一度もない。三四郎の手下として、いくつも事件を解決してきたし、十手を持って捕物の場にも何度も出向いた。
(『いついつまでも 薫と芽衣の事件帖』P.183より)
第1巻『寄り添い花火』では、薫と芽衣の出会ったころに起きた事件が描かれていましたが、本書では、薫が捕物に手を染めるようになった事件が紹介されています。
登場人物の一人で、芽衣を赤子の頃から知っている、元北町奉行所の年番方与力の深谷甚右衛門が薫にかけた言葉です。
読者の中には、十五歳の少女が岡っ引きと下っ引きとなって、捕物をすることがあり得るのだろうか、と疑問を抱えつつ、二人の活躍ぶりを追っている人を念頭に置いたかのような言葉です。
本書の最大の魅力は、薫と芽衣の友情捕物帖というスタイルにあります。
不幸なある事件を通して知り合い、大人たちによって引き離されながらも、再び結びついた二人。お互いに深く心を通わせ合う、唯一無二の大事な友だちです。。
ところが、そんな二人の間に、今回、薫の同い年の異母姉百代が入り、怪我で探索ができない芽衣に代わり、薫の助手を務めることになりました。
今回も胸キュンが止まりません。
いついつまでも 薫と芽衣の事件帖
倉本由布
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2022年2月15日発行
カバーイラスト:あわい
カバーデザイン:大原由衣
●目次
第一話 いつも、いつまでも
第二話 振りはじめ
第三話 雨に傘なく
第四話 花は寄り添う
本文319ページ
本書は、文庫書き下ろし。
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『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)
『いついつまでも 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第3作)