『落花』|澤田瞳子|中公文庫
2021年12月21日から12月末日の間に、文庫で刊行される時代小説の新刊情報リスト「2021年12月下旬の新刊(文庫)」を掲載しました
今回は、澤田瞳子さんの、長編歴史小説、『落花』(中公文庫)を取り上げてみました。
平安時代中期。天皇の従兄である仁和寺僧・寛朝は、己の楽音を究めるため、幻の師を追って京から東国へ下った。そこで荒ぶる地の化身のようなもののふに助けられる。のちの謀反人・平将門だった――。豪放磊落でまっすぐな将門は、次第に叛乱の将に祭り上げられていく。戦場に響く喊声、弓矢のうなり……武士の世の胎動を描く傑作長篇。
(『落花 (中公文庫)』Amazonの内容紹介より)
平将門は、京都の朝廷に対抗して「新皇」を自称し、東国の独立を標榜して承平天慶の乱を起こしたことで知られ、歴史時代小説で描かれることも少なくない人物です。
一方の主人公、寛朝も実在の人物。父は宇多天皇の皇子敦実親王で、広沢湖畔に遍照寺を建立したことから「広沢僧正」「遍照寺僧正」とも呼ばれました。
『宇治拾遺物語』には、安倍晴明が広沢の僧正(寛朝)の御坊を訪ねたときに、修行する若い僧たちから、式神を使って人を殺すことができるのかという、僧にあるまじき物騒な質問を受ける話が載っています。(『宇治拾遺物語』巻十一 第一二七話「晴明蛙を殺す事」より)
その頃、寛朝は、真言密教の祈祷の大家として知られた存在だったようです。
東国で出会った将門と寛朝が、どのように友誼を結び、歴史はどのように動いていったのでしょうか。歴史脳をくすぐられるような物語を楽しみたいと思います。
著者は、2019年、本書『落花』で第161回直木賞候補となっています。
(2021年、『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞しています)
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『落花』(澤田瞳子・中公文庫)
『星落ちて、なお』(澤田瞳子・文藝春秋)