『天下小僧壱之助 五宝争奪』|鷹井伶|ハヤカワ時代ミステリ文庫
鷹井伶(たかいれい)さんの文庫書き下ろし時代小説、『天下小僧壱之助 五宝争奪』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。
著者は、薬膳料理で人々の体と心を癒す娘、佐保を主人公とした、料理時代小説『お江戸やすらぎ飯』シリーズが好評で、注目の時代小説家の一人です。
今回は、趣向をガラッと変えて、華麗なる義賊が活躍するピカレスク痛快小説です。
無役の御家人の有瀬壱之助。だがその正体は、女にも化ける華麗な義賊・天下小僧だった。連日連夜の盗みの宴、狙うは強欲な金持ちだけ。変幻自在に盗み出し、『天』と書かれた札を残す! やがて天下を泰平にする五つの宝、『義経の白珠の弓矢』『信長の髑髏黒水晶』『紅玉淀殿の涙』『独眼竜の虎目石』『天草四郎の血流し翡翠観音』を狙う。が、宝の魔性に魅入られた美女が行く手を阻み……盗みの技に惚れ惚れとする痛快冒険小説。
(本書カバー裏の紹介文より)
有瀬壱之助は、無役の御家人ですが、その裏の顔は天下小僧と呼ばれる義賊です。仲間の、道化の判二、鯰の宗信とともに、業突く張りの金持ちばかりを狙い、犯さず殺さず、鮮やかに金子やお宝を盗み出し、後には『天』と書かれた札のみを残すのが流儀でした。
どいつもこいつも、主人の留守に酒を飲んで眠り込むとは!
怒りが収まらないまま屋敷へと入った老人にさらなる悲劇が襲いかかった。
命よりも大切な金蔵の鍵が開いていたのである。
「これは……」
あれほど詰まっていた千両箱の影も形もない。有名な書画や骨董の類いも何もかもが煙のように消えて失せ、残されていたのは、『天』と書かれた札一枚……。
(『天下小僧壱之助 五宝争奪』 P.11より)
その夜も、俸禄三百俵ばかりの徒頭の家に生まれながら、小納戸役、小姓頭として将軍の側近くで信頼を勝ち得て、さらに養女を側室として差し出し、九千石の旗本まで出世し、隠居した今も江戸城の奥を牛耳る老人、中野碩翁の金蔵をすっからかんにしました。
壱之助は、箱根に投宿している佐賀藩鍋島家秘蔵の翡翠観音を盗み出しました。翡翠観音は、母子観音に似せて作られたマリア像で、島原の乱の際に、原城に立て籠もった民らが崇め、祈りを捧げていたもので、一揆勢の総大将・天草四郎の傍らにあったものでした。
「五宝? 五宝とは何ですか」
「五色の宝。天下を治める力を持つ五つの宝のことさ」
「天下を治める力……」
思わず鸚鵡返しになった壱之助に、竜の頭は頷いてみせた。
(『天下小僧壱之助 五宝争奪』 P.21より)
大盗賊の竜の頭こと川村喜左衛門によると、天草四郎の翡翠観音は、源義経ゆかりの『白珠の弓矢』、織田信長愛用の髑髏型の黒水晶、太閤秀吉が淀殿に贈ったという紅玉の首飾り、独眼竜伊達政宗が我が目と呼んだ虎目石とともに五宝と呼ばれ、五つがそろうと天下を治める力となる宝物であると。
壱之助は、五宝のいわれを聞き、ある人物のため、五宝を盗み出すように依頼されました。ところが、その話を盗み聞きしていた、壱之助を仇と狙う、女賊・お蘭によって喜左衛門が殺されてしまい、翡翠観音も持ち去られてしまいました……。
果たして天下小僧壱之助は、どんな方法で五宝を盗み出すのか?
五宝は天下を治める力が本当にあるのか?
はたまた、天下を狙う人物とはだれなのか?
天保期に巷を騒がす天下小僧の華麗なる盗みと、五宝をめぐる争奪戦が楽しめる、時代エンターテインメント小説です。
壱之助をはじめ、個性的で多彩な人物たちの今後の活躍も見てみたいものです。
天下小僧壱之助 五宝争奪
鷹井伶
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年12月15日発行
カバーイラスト:アオジマイコ
カバーデザイン:早川書房デザイン室
●目次
序 盗みの流儀
第一章 血流し観音
第二章 淀殿の涙
第三章 白と黒
第四章 竜虎の眼
結び 五宝の行方
本文317ページ
文庫書き下ろし。
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『天下小僧壱之助 五宝争奪』(鷹井伶・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『お江戸やすらぎ飯』(鷹井伶・角川文庫)