『柳生石舟齋 第一巻』|五味康祐|捕物出版
捕物出版さんから、五味康祐(ごみやすすけ)さんの剣豪伝奇小説、『柳生石舟齋 第一巻』オンデマンド本をご恵贈いただきました。
代表作で剣豪伝奇小説の『柳生武芸帳』の続編にあたり、週刊誌連載から、約60年間もの間、一度も単行本化されなかった作品です。
「五味の柳生か、柳生の五味か」といわれたほどの五味康祐氏の代表作「柳生武芸帳」の続編。週刊新潮に1962年1月より122回連載された作品であるが、これまで約60年間も単行本化されてこなかった。
おりしも2021年12月は五味康祐氏の生誕100周年の節目にあたり、「柳生石舟齋」を4巻構成で刊行する運びとなった。第1巻には最初の31回分を掲載。毎月一冊刊行予定。(Amazonの内容紹介より)
寛永十六年。駿河と遠江の国境の山中に、旅装の武士とふんどしの腰の上に獣皮を着た裸身の男がやってきました。
裸身の右手が腕の附根から延び、遥かな樹林を指した。
「あれじゃ。――到頭、見つけたわ」
勘行峯から奥仙俣の峡谷を距て、指呼の間に対峙する二王山の山襞の南面に、午下がりの陽射をうけ、濃緑色の木々が、ぱアっ、ぱアっと緑を弾き出す活撥さで、蠢動している。
「あれが、あれが猲者(くず)の棲居か?」
旅装の武士が小走りに戻って来ると眼を据えて叫んだ。(『柳生石舟齋 第一巻』P.4より)
旅装の武士は京都所司代板倉周防守重宗の配下で与力の松原伊右衛門で、裸身の男は、肥前浪人大月多三郎こと、霞の多三郎でした。
猲者とは、国樔とも書き、山から山をジプシーのように流浪する種族のこと。大化の改新の時代の前から、各地に散在し、非農耕民的な生活様式によって大和政権から異種族と目された人々だそう。
山中で、木竹細工をしたり、獣の皮を剥いで鞣したりを生業にする、猲者族は、仙人に似た体躯で年老いた陽勝上人に率いられていました。
「謀られたとあれば已むを得ん」
多三郎は四人を等分に睨んで言った。
「斬るなと何なと、存分にせい」
「うぬは何のため此処へ来た。それを言え」
「柳生十兵衛が行衛を尋ねてよ。おぬしらの仲間に交った武士の正体、見究めるつもりが二つ。三つには陽勝老人に会うて聞きたいことがあった。まだある、尾張鍔の鍛えよう、元はおぬしらの手で成ったかどうか見届けに来た」(『柳生石舟齋 第一巻』P.468より)
多三郎は鉱泉で沐浴をしていた少女・守戸姫を襲いましたが、逆に猲者の男たちに取り囲まれてしまいました……。
柳生家の秘密が記された柳生武芸帳をめぐって、宗矩や十兵衛、友矩、尾張柳生の兵庫介といった柳生家の面々と、『柳生武芸帳』に続いて宿敵山田浮月齋らが争います。
土井大炊頭利勝、酒井讃岐守忠勝、永井信濃守尚政、松平伊豆守信綱や春日局らの幕閣までが暗躍をし、物語をとてつもなく面白くしていきます。
博覧強記の著者が随所に語られる歴史のうんちくも興味深く、隆慶一郎さんの『吉原御免状』などで触れられた「道々の輩(ともがら)」を想起させてくれます。
(一読して、長らく単行本化できなかった背景にも思い至りました)
4分冊で、毎月1巻ずつ刊行されるということで、しばらく物語の楽しみが続きます。
柳生石舟齋 第一巻
五味康祐
捕物出版
2021年12月1日 オンデマンド版初版発行
目次
猿笛
茶筅
旃多羅
鍛冶
佐恵久仁
青屋
紙捻
水月
遊女
青痣
御宸怒
雨脚
牡丹長者(一)
牡丹長者(二)
登城
評定
葛粉
小花
灯
片袖
国樔舞い
燭台
氷梅(一)
氷梅(二)
不寝番
陰士
熊野
奉書稽古
残心
鼓
悪太郎
本文284ページ
本書収録作品の底本は、以下の通り。
「柳生石舟齋」 「週刊新潮」昭和三十七年一月八日号~昭和三十七年八月六日号 新潮社
■Amazon.co.jp
『柳生石舟齋 第一巻』オンデマンド本(五味康祐・捕物出版)
『柳生武芸帳 上』(五味康祐・文春文庫)
『吉原御免状』(隆慶一郎・新潮文庫)