『姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~』|亜胡夜カイ|アルファポリス文庫
亜胡夜カイ(あこやかい))さんの長編時代小説、『姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~』(アルファポリス文庫)をご恵贈いただきました。
著者の亜胡夜カイさんは、オンライン小説投稿サイトで作品を発表し、本作で、2021年、アルファポリスが主催する、第6回歴史・時代小説大賞を受賞されました。
由緒正しき大名家・鵺森藩の一人娘でありながら、剣の腕が立つお転婆姫・美弥。そして、その懐にいるのは射干玉色の黒猫、玉。とある夜、美弥は玉を腕に抱き、許婚との結婚を憂い溜息をついていた。とうに覚悟は出来ている。ただ、自らの剣術がどこまで通用するのか試してみたい。あわよくば恋とやらもしてみたい。そんな思惑を胸に男装姿で町に飛び出した美弥は、ひょんなことから二人の男――若瀬と律に出会う。
どうやら彼らは、美弥の許婚である椿前藩の跡継ぎと関わりがあるようで――?(本書カバー裏の紹介文より)
黒猫玉は、射干玉の美しい黒い毛並み、緑色の宝玉の目がご自慢の美猫ですが、その体躯はいつまでたっても子猫に毛が生えた程度でなぜか成長が止まっていた。
「幼き頃より決められていた許婚殿だ。覚悟はできている。ただ――」
姫様はとうとう徳利に直接唇をつけてぐびりと音を立てて飲み下した。
姫様はうわばみなのだ。口の堅い御女中数名と、あたししから知らないけれど。
「ただ、もう少し。……あともう少し、自由でいたかったのだ。わたしは」(『姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~』 P.9より)
玉の主は、三十万石の鵺森藩佐川家の姫君、美弥。
今年十六歳となり、ひと月後には許婚と顔合わせをして、そのとき祝言の日が決められてしまいます。
会ったことのない許婚との結婚が近づく中、美弥は「一度でよいから恋とやらをしてみたい」と思い、憂鬱を玉を相手に飲む酒で紛らわすことも。
免許皆伝の剣の腕前をもつ美弥の趣味は、共も連れずに江戸城下をぶらぶら町歩きを一人楽しむ散歩。
愛猫の黒猫玉を懐に入れて、男装姿で町に出て、ならず者に言い寄られていた茶屋の娘を助けたり、ぶつかったと因縁をつける不良侍を諫めたりして、町では人気者です。
「若! もう、どこへ行っちまったかと……」
「やあ、律。ずっとここにいたよ」
「嘘つけ、ちょっと目を離すと」
「それよりね。律。このお方が掏摸をつかまえて下さったのだ」(『姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~』 P.20より)
美弥は日本橋の目抜き通りで、掏摸に遭った若者を助けて、すり取られた巾着を取り戻しました。
若と律と呼び合う二人は、昨日、江戸入りしたばかりで、美弥の許婚の椿前藩ゆかりの者でした。椿前藩では、当主は重病で隠居を決意したところ、嫡男は急死してしまい、急遽国元から次男が江戸に呼び寄せられました。
しかも、江戸家老が推す隠し子も出現して、御家騒動真っただ中です。
美弥を男と思い込みながらも、その人形のような美しさと性別を超えた可愛らしさに強烈に惹かれ、衆道も辞さずと思い始める若と律。
御家騒動に巻き込まれていく中で、徐々に強まっていく三人の恋模様。情報収集のために、大店の娘姿で敵地に単身乗り込む美弥にキュン死寸前に。場面の切り替えで、美弥といつも一緒の黒猫玉の視点からの語りが入り、猫好きにはたまりません。
次回作が待ち遠しくなりました。
姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~
亜胡夜カイ
薄幸:アルファポリス・アルファポリス文庫
発売:星雲社
2021年10月5日初版発行
Illustration:Minoru
Design Work:ナルティス(原口恵理)
●目次
なし
本文346ページ
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『姫様、江戸を斬る ~黒猫玉の御家騒動記~』(亜胡夜カイ亜胡夜カイ・アルファポリス文庫)