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『ごんげん長屋』を見守る老夫婦、笑顔の裏に哀しい過去が

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『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』|金子成人|双葉文庫

ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。

女手一つで3人の子供を育てるお勝を中心に、根津権現門前町の裏店『ごんげん長屋』の住人たちが繰り広げる、人情長屋小説シリーズの第三弾です。

一話完結の連作形式で、長屋周辺で起こった出来事や騒動が綴られています。
「剣客商売」「御家人斬九郎」「茂七の事件簿 ふしぎ草紙」など、多くの時代劇の脚本を手掛けた著者の作品らしく、巧みに物語が構成され、人情の機微に触れられ、時代劇のように物語の世界に引き込まれます。

お勝たちの隣の部屋に住まう、彦次郎とおよしの夫婦。古くから『ごんげん長屋』に暮らし、賑やかな二人の元へ、常陸国から一人の男が訪ねてきた。男を追い返すとともに、慌てて長屋を引き払おうとする彦次郎たちを引き留めたお勝は、老いた夫婦の哀しい過去を知ることになる――。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、大人気シリーズ第三弾!

(カバー裏の内容紹介より)

お勝は、大家の伝兵衛から、新年早々、『ごんげん長屋』に新しい住人が入ることを聞きました。

「一人は、三十半ばの、青物売りを生業にしているお六という人で、もう一人は、ほら、表通りの自身番の向かいの『弥勒屋』って足袋屋の治兵衛さんですよ」
『弥勒屋』は表はよく通るので知っているが、伝兵衛が口にした名の奉公人に心当たりはなかった。
「長年手代を勤め上げた末、去年の師走、四十半ばにしてやっと番頭になったという苦労人だよ」
 伝兵衛の話は、お勝は得心がいった。
 
(『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』「第一話 一番かみなり」P.37より)

大きな商家の奉公人は住み込みがほとんどで、番頭になって初めて外に住まいを持ち、通いの身分になれるのでした。
また、結婚することも通い奉公が許されてからとなることが多かったようです。

本書の主人公、お勝は根津権現社の南側にある、質舗『岩木屋』で番頭を務めています。馬喰町の旅人宿の娘に生まれたお勝は、旗本建部家に女中奉公していたころ、当主の建部左京亮の手がついて、二十年ほど前に男児を産み、その後、赤子の残して建部家を去ったという経緯があり、以後、絶縁していました。

今は、血がつながらない三人の子供、お琴、幸助、お妙を育てています。

「第一話 一番かみなり」では、旗本建部左京亮家の用人、崎山喜左衛門がお勝に会いに来ました。建部家の後嗣で、お勝が産んだ源六郎が、日本橋亀井町の近藤道場に通い始めたことを告げました。

近藤道場は、お勝と幼馴染みの沙月の夫が師範を務める道場で、沙月の口から、いつ、お勝のことが話に出るか気がかりになりました。

二人の新しい住人を迎えて、ますます賑やかになる、『ごんげん長屋』で、いかなる騒動が起こるのでしょうか?

表題作では、二十年も『ごんげん長屋』に住んでいて、お勝の子供たちも懐いて部屋に入り浸っている、研ぎ屋の彦次郎とおよしの老夫婦に、思いがけない事件が起こります。

ますます目が離せない、第三巻では、長屋の住人たちの思いやりややさしさ、時にはお節介に、心が癒されます。

釘抜き崩し

家紋〈釘抜き崩し〉

物語の中で、お勝がかつて仕えていた、建部家の家紋が〈釘抜き崩し〉と書かれていました。
釘抜きは釘を抜く工具で、和釘を抜く釘抜きの座金(◇のような形となっている)部分を図案化したものが釘抜き紋の基となっています。
最近、時代小説に登場する家紋が気になっています。

ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜

金子成人

双葉社 双葉文庫
2021年9月12日第1刷発行

カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラストレーション:瀬知エリカ

●目次
第一話 一番かみなり
第二話 藍染川
第三話 老臣奔走す
第四話 望郷の譜

本文285ページ

文庫書き下ろし

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『ごんげん長屋つれづれ帖(一) かみなりお勝』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(三) 望郷の譜』(金子成人・双葉文庫)

金子成人|時代小説ガイド
金子成人|かねこなりと|時代小説・作家 1949年、長崎県生まれ。脚本家。 1997年、第16回向田邦子賞を受賞。 2014年、『付添い屋・六平太 龍の巻 留め女』で、時代小説デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 八丈島から島抜け。兄を...