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神奈川県警に「ヲタク」の女神来臨。鉄ヲタの誇りをサポート

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『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』|鳴神響一|幻冬舎文庫

神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし警察小説、『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』(幻冬舎文庫)をご恵贈いただきました。

『私が愛したサムライの娘』でデビューした著者。
歴史時代小説ばかりでなく、文庫書き下ろしで警察小説シリーズも精力的に発表し、いずれもエンタメ性が高くて、多くの読者を虜にしています。

『脳科学捜査官 真田夏希』、『令嬢弁護士桜子』に続く、新たなヒロインは、女子高生と見まごう童顔の美人警察官、細川春菜です。

二八歳にしては童顔で小柄。女子大生か、時には女子高生に見間違えられる神奈川県警江の島署の細川春菜に異動の辞令が。新たな部署は栄えある本部刑事部の「捜査指揮・支援センター」。だが、期待と不安を胸に新天地に赴いた彼女を待っていたのは、一癖も二癖もある同僚たちと、鉄道マニアが被害者の凄絶な殺人事件だった。新シリーズ第一弾!

(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』カバー裏の紹介文より)

本書の主人公、細川春菜巡査部長は、江の島署の生活安全課から、本部の刑事総務課の捜査指揮・支援センターに異動になりました。

詳しい業務内容を知らされないまま、大学院を出たようなエリートが集められるという専門捜査班に配属されました。

「警察です」
 ようやく制服に略帽姿の地域課の警官が二人飛び込んできた。
 近隣を巡回していた旭署の地域課員が駆けつけてくれたようだ。
「細川さんは?」
 年かさの四〇歳くらいの警官が訊いた。胸の階級章を見ると、巡査長だ。
「わたしです」
 春菜は手を振って応えた。
「あのね、お嬢ちゃん、わたしたちが探しているのは巡査部長の細川さんなんだよ」
 小馬鹿にしたような調子で巡査長は言った。

(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』P.28より)

春菜は、刑事部へ異動の初日の出勤途中の電車の中で、痴漢に遭い、被疑者を捕まえてしまいました。
ところが、駆けつけた警官からは小柄で若く見える風貌から女子高生と間違われてしまいました。

結局、遅刻をして出勤した刑事総務課の専門捜査支援班では、班長の赤松以下、キツネに似た顔の尼子、イタチを思わせる男大友、タヌキに似た男葛西が同僚となりました。

専門捜査支援班は、人文・社会学や経済・経営・法学、工学、理・医・薬学系の学者や医師などを担当し、連携して捜査に役立つ情報を引き出す役割を持っています。

春菜は、学者ではなく、各分野の専門知識を持っている一般人の登録捜査協力員を担当することになりました。
登録捜査協力員の項目は、アイドル、アニメ・マンガ、海の動物、温泉、カメラ・写真、ゲーム、昆虫、コンピュータ、自動車、植物、鳥類、鉄道、特撮、バイクなど。

異動したての春菜は、捜一強行七係の浅野康長警部補から出動要請を受けました。

先週の土曜の早朝、戸塚区品濃町の私道脇の空き地で、二十九歳の会社員が絞殺された殺人事件が発生しました。

しかし、会社関係と交友関係を中心に鑑取りをしても有力な情報は得られず、目撃者もなく、地取りもうまくいっていません。

死体発見現場のすぐましたに、東海道線の清水谷戸トンネルがあり、電車を撮影するのにいい場所で、《撮り鉄》が集まるポイントでした。

「すみません、トリテツってなんですか」
 初めて聞いた言葉だった。
「鉄チャンのなかで、列車の写真を撮ることを趣味としている人たちだよ」
「ああ、鉄道が趣味の人たちなんですね」
 春菜はあいまいに答えた。

(『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』P.4より)

康長から、春菜はヲタクの担当であることを教えられ、二つのことを依頼されました。

ひとつは、鉄チャンの登録捜査協力員に会って情報収集をすること。もうひとつは、被害者の手帳に残された「イルカモドキ」の意味を調べること。

鉄道をはじめ、ヲタクの人たちと会話をできるような知識を全く持っていない春菜は、康長が同行し、四名の鉄道ヲタクの捜査協力員と会って話を聞くことになりました。

鉄道に関する専門知識があふれるように口をついて出てくるヲタクたちの話から、春菜は犯人の手がかりを得ることができるのでしょうか?

鉄道ファンではないのですが、彼らの矜持とこだわり、ヲタク心理に共感を覚え、春菜と同じように話に引き込まれていきました。

江の島署の防犯少年係で実績があって、配転になった春菜。
少年たちが親しみを感じる外見、女子高生と見まごう童顔が強力な武器で、ヲタクたちも親切にわかりやすく「鉄道」の知識と情報を提供してくれます。

「ヲタク」を捜査協力員に登用して、その高い専門性を捜査に活用するという発想が面白くて、新機軸の警察小説シリーズの誕生です。

次はどんなヲタクたちが登場するのか、早くも第2作が待ち遠しくなりました。

神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜

鳴神響一
幻冬舎 幻冬舎文庫
2021年6月10日初版発行

カバーデザイン:舘山一大
カバーイラスト:田中寛崇

●目次
第一章 専門捜査支援班
第二章 鉄ヲタの誇り
第三章 撮り鉄のこころ
第四章 鉄路に真実が響くとき

本文294ページ

文庫書き下ろし

★おまけ
鳴神響一さんの警察小説のポジショニングをまとめてみました。
鳴神響一警察小説ポジショニング
(『令嬢弁護士桜子』は、警察小説と言えないかもしれませんが…)

★お詫び
長らく、「細川春菜」の名を誤記しておりました。申し訳ありません。(2021/12/12追記)

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『神奈川県警「ヲタク」担当 細川春菜』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)
『令嬢弁護士桜子 チェリー・ラプソディー』(鳴神響一・幻冬舎文庫)
『刑事特捜隊「お客さま」相談係 伊達政鷹』(鳴神響一・小学館文庫)
『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』(鳴神響一・ハルキ文庫)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...