篠綾子さんの文庫書き下ろし時代小説、『くさまくら 万葉集歌解き譚』(小学館文庫)を入手しました。
江戸・日本橋の薬種問屋の小僧・助松が、主人の娘しづ子に『万葉集』の和歌を学びながら、謎解きにかかわっていく、「万葉集謎解き譚」シリーズの第3弾です。
万葉集ゆかりの地、伊香保温泉への旅は、しづ子と母親の八重、手代の庄助に小僧の助松、それに女中のおせいの総勢五人。護衛役は陰陽師の末裔・葛木多陽人だ。無事到着した一行だったが、多陽人が別行動を願い出た。道中でなにか気になったものがあるらしい。しかも、約束の日時が過ぎても戻ってくる気配がない。八重の命で捜索に向かった庄助と助松の胸に、国境の藤ノ木の渡しの流れで目にした人形祓いが重くのしかかる。この烏川の上流になにかあるにちがいない。勇を鼓して川を遡り始めた二人が霞の中に見たものは――。「万葉集歌解き譚」シリーズ最新刊。
(『くさまくら 万葉集歌解き譚』カバー裏の内容紹介より)
日本橋の薬種問屋、伊勢屋の娘しづ子は、小僧の助松、しづ子と同様に賀茂真淵に師事していた若い侍・加藤千蔭(ちかげ)、占い師の葛木多陽人(かつらぎたびと)と一緒に、江戸の東郊、葛飾の真間(まま)へ行楽に出かけました。
この四人は、先頃、賀茂真淵が巻き込まれた事件解決のために力を合わせたのだが、解決の糸口となった『万葉集』の和歌の中に、真間を詠んだものがあった。これに助松が興味を持ち、それほど遠くないのだから行ってみようとなっただのである。
足の音せず 行かむ駒もが 葛飾の 真間の継橋 やまず通はむ
(『くさまくら 万葉集歌解き譚』P.9より)
真間は、歌川広重の名所江戸百景の「真間の紅葉 手古那の社継はし」にも描かれていて、手児奈霊神堂や弘法寺などがあり、江戸から紅葉狩りに出かける人も多い名所の一つです。
万葉集の歌枕を訪ねたいと願う、しづ子は、父の許しを得て、母親八重とともに上州・伊香保温泉へ旅をすることになりました。
お供は手代の庄助に小僧の助松、女中のおせい。護衛役として葛木多陽人が一行に加わりました。
伊香保に向かう途中、上州との国境、藤ノ木の渡しで人形祓い(ひとがたはらい)を見かけて、一行は不吉な思いにかきたてられました。
一行を無事に伊香保温泉に送り届けた多陽人は、八重に五日間の暇を願い出ました。
帰路のことを考え、途中の村に戻り、烏川の流れる辺りを調べて不安を取り除きたいと
「ところで、一つ助松はんに頼みがありますのや」
と、急に言い出した。
「え、おいらにですか」
多陽人はうなずき、懐から折り畳まれた紙を取り出した。
「もし私が五日経っても戻らへんかったら、これをお嬢はんに見せておくれやす」(『くさまくら 万葉集歌解き譚』P.104より)
助松は、宿を出ていく多陽人から、烏川を流れてきた竹筒の中に入っていたという紙を託されました。
それから五日が経っても、多陽人は帰ってきません。
多陽人は、何かの事件に巻き込まれたのでしょうか?
八重の命を受けて、庄助と助松は、竹筒が流れてきたと思われる川上の村を探すことに……。
歌枕を訪ねる旅は、万葉集の歌に導かれてある事件へ。
今回も、万葉集の世界をどっぷり楽しめます。
本書では、真間で多陽人から紅葉とともに、万葉集の歌を贈られた、しづ子が、多陽人を意識するようになり、恋心を募られていくところも読みどころの一つです。
くさまくら 万葉集歌解き譚
著者:篠綾子
小学館文庫
2021年5月12日初版第一刷発行
カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:チユキ・クレア
●目次
第一首 くさまくら
第二首 武蔵野の
第三首 伊香保ろの
第四首 木綿畳(ゆふだたみ)
第五首 鶯の
第六首 常世辺に
第七首 天地の
第八首 たびころも
本文289ページ
文庫書き下ろし
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『からころも 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)
『たまもかる 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)
『くさまくら 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)