シェア型書店「ほんまる」で、「時代小説SHOW」かわら版を無料配布

風光明媚な湖で発生した誘拐事件に、人質救出の元プロが挑む

アドセンス広告、アフィリエイトを利用しています。
スポンサーリンク

『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』|鳴神響一|ハルキ文庫

SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』(ハルキ文庫)をご恵贈いただきました。

田舎で生まれ育った私にとって、駐在所は家の近くにあって身近な存在でした。
犯罪とは無縁の長閑な土地だったせいか、歴代の駐在所員はみな「駐在さん」と呼ばれ、地元に溶け込み、親しみやすい人たちで、警察小説とは最もかけ離れていたように思います。

本書のタイトルのSISとは、Special Investigation Squadの略称で、県警特殊捜査係のこと。
神奈川県警では、第一係で誘拐と人質立てこもり事案を扱い、第二係では列車妨害などの交通機関関連事案や工場等の爆破事案を扱っています。刑事部の中でも精鋭ぞろいです。
誘拐・人質救出のプロであった主人公・武田晴虎は、ある事件をきっかけに、温泉をそなえたリゾート地でもある、風光明媚な丹沢湖の駐在所勤務となりました。

神奈川県警捜査一課特殊捜査係、通称SISの元第四班長武田晴虎がこの四月より赴任するのは、松田警察署地域課丹沢湖駐在所。過去の人質立てこもり事件の際に部下を負傷させてしまい、また伴侶を失っていた晴虎は、その地での再起を誓っていた。長閑な温泉街で持ち込まれる、微笑ましい相談。しかし、まさかの誘拐事件が発生し!? 過去を乗り越え、再び闘う己を取り戻すことはできるのか。警察小説の新ヒーロー、誕生。

(『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』カバー裏の紹介文より)

本書の主人公、武田晴虎警部補は神奈川県警特殊捜査係第一係第四班長でした。
元暴力団組員で覚醒剤中毒の中年男が、三カ月前に別れた妻を人質にとって、妻のマンションに拳銃をもって立てこもる事件が発生しました。

「前線本部から海野」
「海野です」
「屋根の駒井が、破壊された天窓からの突入を待機している。援護のために松尾を屋根に向かわせろ」
「了解っ」
「拳銃の使用はできるだけ避け、マル対に危険が及んだ場合のみ許可する。本隊は玄関から突入する。人質に危険が及びそうになったら、駒井の天窓からの突入命令を下す。全隊員、突入準備せよ」

(『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』P.14より)

覚醒剤による幻覚症状が表れて錯乱する犯人により、人質の危険が高まり、晴虎は部下のSIS隊員を突入させる指示をしました。

犯人を拘束し人質を無事に救出しましたが、隊員の一人が重傷を負ってしまいました。
県警内でも突入判断に誤りはないとされ、晴虎の責任は問われませんでしたが、後遺症が残るような大怪我を負った結果を受けて、晴虎は部下を危険にさらす指揮官という立場に自分がむいていないことを痛感しました。

妻を失い、一人暮らしの晴虎は、警部補が一人で勤務できる職務として、駐在所への異動希望を出して、新年度の初日の四月一日から松田警察署地域課丹沢湖駐在所へ赴任することになりました。

「ママが僕を虐待してるんだ」
 目を見開いて泰文はつよい口調で訴えた。
 母親による虐待か……。
 晴虎は泰文の目を見た。嘘を吐いているとは思えなかった。
「どんな目に遭ったのかな?」
「家に入れてもらえないんだ」
 泰文はすねたような声を出した。

(『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』P.39より)

小学5年生の男の子、甘利泰文がバスに乗って駐在所にやって来て、晴虎に児童虐待を訴えました。
話を聞くと、夕食のおかずが気に入らなくて、母親に文句を言ったら家から閉め出されたと言います。
話を聞いた晴虎は、ジムニーのパトカーで泰文を家まで送っていくことに。

本書では、主人公の武田晴虎(武田信玄の諱の晴信と、父の信虎を組み合わせたような名前)をはじめ、登場人物が戦国武田家ゆかりの名字になっているのがユニークです。
ほかにも歴史時代小説ファンがニヤリとするような描写も。

 河原に砂利採取場が見える上ノ原集落だが、右手には後北条氏の前線基地だった中川城跡が残っている。武田信玄と武田勝頼に二度も攻められても落ちなかった城だが、豊臣秀吉の小田原征伐の際に廃城となった。曲輪跡は私有地でバンガローになっている。

(『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』P.47より)

事件とは無縁の田舎でのんびりと勤務して、傷ついた心を癒し再起をはかるつもりでしたが、まさかの誘拐事件が発生しました。

湖近くの温泉ホテルに宿泊したカップルが夕食後に散歩に出たところ、暗がりで男性がスタンガンで襲われ、女性のほうは知らない男に刃物で脅しつけて無理やりクルマに乗せて連れ去られてしまいました……。

前線本部が管轄区域内の登山センターに立ちますが、晴虎は駐在所員ということで、本部を統括する責任者で刑事部の宇佐美管理官から丁重に、バックヤードお設営や道案内のみを命じられます。

SISだった頃には、誘拐事犯を専門に扱ってきたプロとしての自負もあり、できるなら前線本部に参加して事件解決に尽力したいと願いますが……。

事件発生から、物語にグイグイ引き込まれていきます。

犯人の正体は?
調べを進めていくうちに誘拐事件の動機につながるもう一つの事件が……。
謎は深まるばかり。
タイムリミットが課せられる中で、息詰まる犯人との対決へ、スリルとサスペンスがノンストップで次々に訪れます。
著者の作品史上最大級のアクションシーンが楽しめる、警察小説の誕生です。

SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎

鳴神響一
角川春樹事務所 ハルキ文庫
2021年5月18日初版第一刷発行

写真:Joe Klementovich/gettyimages
装幀:bookwall

●目次
序章 祈り
第一章 にわか雨のち晴れ
第二章 駐在所員の定め
第三章 風の谷の現場
第四章 刑事魂

本文285ページ

文庫書き下ろし

■Amazon.co.jp
『SIS 丹沢湖駐在 武田晴虎』(鳴神響一・ハルキ文庫)

鳴神響一|作品ガイド
鳴神響一|なるかみきょういち|時代小説・作家 1962年、東京都生まれ。中央大学法学部卒。 2014年、『私が愛したサムライの娘』で第6回角川春樹小説賞を受賞してデビュー。 2015年、同作品で第3回野村胡堂文学賞を受賞。 ■時代小説SHO...