『火花散る おいち不思議がたり』|あさのあつこ|PHP文芸文庫
あさのあつこさんの長編時代小説、『火花散る おいち不思議がたり』(PHP文芸文庫)をご恵贈いただきました。
この世に思いを残して亡くなった者の姿が見えたり、声が聞こえたりする、不思議な力をもつ娘、おいちがその力を使って、難事件を解決していく「おいち不思議がたり」シリーズの第4作です。
最近、巻頭に「主な登場人物」の紹介や作品の舞台となる江戸の町の絵図が掲載されていることが増えています。本書もそうですが、わかりやすい上に、スッと物語に入っていけるので、読者にとってありがたいことだと思っています。
不思議な能力を持つ娘おいちは、父・松庵のような医師になるべく、努力を重ねていた。そんなおいちの前に突然現われ、赤子を産み落として姿を消した女が殺される。その女の、聞こえるはずのない叫びを聞いたおいちは、岡っ引・仙五朗らと力をあわせ、下手人探しをするのだが……。傷痕から見えてきた女の正体、そして赤子の運命は? おいちと仙五朗の推理が冴えわたる、人気の青春「時代」ミステリー第四弾。
(『火花散る おいち不思議がたり』カバー裏の内容紹介より)
おいちは、深川六間堀町の菖蒲長屋で町医者を営む藍野松庵の娘で、父のもとで医者の修業をしています。
おいちは、深川元町の老舗薪炭屋の隠居おきくの往診の帰り、旅姿の身重の女を助けて、菖蒲長屋に連れ帰りました。
――死にたくない。生きてみたい。かかさまを……助けて。
おいちは瞼を開けた。月に照らされた蒼白い道がある。昼間とはまるで別の、どこか異界に通じているような道だ。
――助けて……。かかさまが……。殺さないで……。生きてみたい。生きてみたい。生きてみたい。(『火花散る おいち不思議がたり』P.42より)
滝代と名乗る女の陣痛が始まりました。
松庵は出産は専門外で、取り上げ婆のお重が腰痛で動けない状況で、子どもを産んだことがないおいちが、長屋の女たちの力を借りて、見よう見まねで赤子を取り上げることになりました。
お重の助手をつとめたことが一度あるだけのおいちによる、初めての助産シーンが臨場感があって、ドキドキハラハラします。
おいちは、なんとか赤子を無事に取り上げることができました。
ところが、おいちが夜が明けきるまで一刻ばかり横になっている間に、旅と出産の疲れで衰弱していた滝代が長屋から姿を消しました。
“剃刀の仙”と異名をとる腕利きの岡っ引仙五朗が長屋にやってきて、明け方近くに一ツ目之橋の近くで滝代と思われる女が数人の侍に襲われて、背中を斬られ腹を刺された殺されたと、おいちらに告げました。
滝代は白装束で立っていた。
髪を垂らし、一つに束ねている。まるで、死地に赴く人のようだった。おいちは、身震いする。
滝代さん。
呼びかけたのに声が出ない。(『火花散る おいち不思議がたり』P.101より)
おいちは、幽霊や霊魂とかよばれている者の姿を見て、声を聞くことができる不思議な能力をもっていました。
おいちは滝代がこの世に残した想いをくみ取って、残された赤子・十助の命だけはなんとしても守り通そうと思いました。
滝代は何者なのでしょうか? 何ゆえに殺されたのでしょうか?
仙五朗親分の力を借り、自身の不思議な力を使って、深まる謎に挑みます。
サスペンスに満ちた捕物劇を縦糸に、困っている人を助けたいと医者を目指すおいちを描く青春ストーリーを横糸に、織りなす市井人情物語です。
カバーの帯によると、第5作となる単行本『星に祈る おいち不思議がたり』が2021年6月に発売されるそうです。
女のための医者を目指す、おいちの新しい物語がますます楽しみになりました。
火花散る おいち不思議がたり
あさのあつこ
PHP研究所 PHP文芸文庫
2021年5月25日第1版第1刷
装丁:こやまたかこ
装画:丹地陽子
●目次
母と子
赤子、泣く
小さな手
夢の女
白い火花
遠い煌めき
想いの花
見知らぬ人
風に揺られて
やがて、朝が
本文350ページ
単行本『火花散る おいち不思議がたり』(PHP研究所、2018年6月刊)を文庫化したもの
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『おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第1作)
『桜舞う おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第2作)
『闇に咲く おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第3作)
『火花散る おいち不思議がたり』(あさのあつこ・PHP文芸文庫)(第4作)