『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』|坂岡真|双葉文庫
坂岡真(さかおかしん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。
南町奉行所奉行所で例繰方与力を務める平手又兵衛は、「はぐれ」と呼ばれる変わり者です。内勤する又兵衛は、奉行所で裁けない悪に対して、内に秘めた正義感を爆発させて悪を陰で懲らしめる、痛快な時代小説シリーズの第三弾です。
又兵衛の妻静香の前夫は火盗の長官の嫡男だった――。偶然の再会を機に、前夫の差し金とおぼしき嫌がらせが続いたことを気に病んだ静香は姿を消してしまう。行方が杳として知れぬなか、火盗改の捕り物の助っ人に駆りだされた又兵衛は、盗賊の頭を召し捕る手柄をあげるた、捕らえた頭が牢破りをしたとの報が届き――。怒りに月代を染めて、許せぬ悪を影裁き。時代小説の至宝、坂岡真が贈る、令和最強の時代シリーズ第三弾!
(『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』カバー裏の内容紹介より)
品川宿の先にある紅葉狩りの名所、海晏寺に、妻静香と静香の両親、長元坊、小者の甚太郎らと出かけた又兵衛は、門前で酒に酔った行状の芳しくない五人の侍と遭遇しました。うちの一人で齢は三十なかば、鼻筋の通った見目のよい風貌だが、酒のせいで血走った眼が据わっている侍が、「おぬし、静香であろう」とひと言浴びせました。
「こんなところで何をしておる」
侍に問われても静香はこたえず、殻を探す宿居虫のように又兵衛の後ろへ隠れようとした。
「知らぬ仲でもあるまいに、こそこそ隠れることはあるまい。おい、みなの者、あのおなごはな、わしの元女房じゃ。閨でさんざん可愛がってやったのだぞ」(『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』P.141より)
侍は、新任の火盗改の頭となった佐土原采女の嫡男琢磨でした。
別れた静香に未練をもつ琢磨は、偶然の再会以降、平手家に次々に嫌がらせを仕掛けてきました。静香は老いた両親ともどもの屋敷を出て姿を消してしまいました。
静香と両親の行方がわからぬなか、稲妻小僧と呼ばれる凶賊を捕縛すべく、火盗改の捕り物に、南町奉行所に出役の要請が掛かり、助っ人に又兵衛も駆りだされました。
犯行現場から少し離れた持ち場についていた又兵衛の前に、稲妻小僧の弥源太が突然現れ、頭目を捕らえるという働きをしました。
又兵衛は、近くにいた火盗改方の若手刈谷政之助に手柄を譲りました。
ところが、出役から三日後の朝、又兵衛の屋敷を、火盗改で与力で出役の総指揮を任されていた「目白鮫(めじろざめ)」こと、鮫島広之進が訪ねてきました。
火盗改の役宅に捕縛されていた弥源太が牢を破って逃げたと言います。
又兵衛に意趣返しすべく機会を狙う凶賊・弥源太と、元妻の静香に執着し又兵衛に敵意を抱く琢磨。二人の卑劣漢に、又兵衛の怒りは頂点に達します。
又兵衛の妻への熱い思いが伝わる表題作のほか、悪徳金貸し座頭を懲らしめる「西琳寺の虎」、七代目市川團十郎や四代目鶴屋南北ら登場し江戸歌舞伎の世界が楽しめる「暫」の三話を収録しています。
長元坊を相棒に大勢の敵を相手にした迫力の剣戟シーンに、ハラハラドキドキ、大いに楽しめます。コロナ禍の憂さも一掃できる痛快時代小説です。
はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫
坂岡真
双葉社 双葉文庫
2021年5月16日第1刷発行
カバーデザイン:鳥井和昌
カバーイラストレーション:村田涼平
●目次
西琳寺の虎(さいりんじのとら)
目白鮫
暫(しばらく)
本文336ページ
文庫書き下ろし
■Amazon.co.jp
『はぐれ又兵衛例繰控(一) 駆込み女』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(二) 鯖断ち』(坂岡真・双葉文庫)
『はぐれ又兵衛例繰控(三) 目白鮫』(坂岡真・双葉文庫)