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文書係や衣装係、力仕事も、大奥で働く女性たちのお仕事小説

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『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』|永井紗耶子|新潮文庫

大奥づとめ よろずおつとめ申し候永井紗耶子さんの時代小説、『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』(新潮文庫)を入手しました。

大奥と聞くと、三千人からの女性が上様の寵を争う女の園というイメージがあります。
しかし、誰もが上様の手が付くわけではなく、大多数は手の付いていない「お清(きよ)」と呼ばれる奥女中でした。
ちなみに、御手付き中臈(御側室)は、「汚(けが)れた方」と呼ばれていました。

本書は、「お清」の奥女中たちの大奥での仕事と日常を描いた連作短編集です。

上様の寵愛こそすべて、とは考えなかった女性たちがいた。大奥の多種多様な職場に勤めた「お清」の女中たち。努力と才覚で仕事に励む彼女達にも、人知れず悩みはあって……。里に帰れぬ事情がある文書係の女、お洒落が苦手なのに衣装係になった女、大柄というだけで生き辛い女、負けるわけにはいかぬが口癖の女。今に通じる女性たちの姿をいきいきと描く斬新な江戸のお仕事小説。

(本書カバー裏の紹介文より)

徳川家斉の御世、文政十年。
御家人の娘であったお利久は、旗本の養女として十六歳の時に大奥に上がりました。
大奥での出世というと、上様の目に留まり、御手付きになり、子を産んで側室となることと思っていたお利久は、仕えていた御年寄から、お清であれば、己の手腕と運、人脈によって出世することができると諭されました。
出世の頂においては、上様の寵愛のあるなしはかかわりないと。

「私は武家の生まれですが、夫はおりません。こうして師匠として暮らしを立てています。それは、大奥づとめをして参ったからです。お上のために働いて来たことで、こうして師匠としての箔をつけることができました」
「大奥づとめ……でございますか」
「そうです。大奥に入り、芸事をさらに磨くもよし。立身出世を図るもよし。ただ……」
 師匠はそこまで言って言葉を止めました。そして私をしみじみと見詰めて、深くため息をつきました。
「当たり前の生き方の方が、楽だということもあります。役宅に住まい、子を産み育てて、夫に尽くすのは、誰とも争わず、平穏に生きる道だというのもまた、事実です」
 
(『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』 P.19より)

大奥に上がる前、お利久は武家の娘としての自覚植え付けられ、炊事、裁縫はもちろん、琴、花、お茶、舞、謡に手習いと、一通りのことは学びました。
そのころ、悩みを打ち明けた琴の師匠から、大奥という逃げ道があることを教えられました。

やがて、お利久はある出来事がもとで、大奥に入りました。
大奥の主である御台様の入浴の世話や、寒い日には火鉢の火を熾したり手すさびの煙草盆などの支度をする「御三の間」(おさんのま)の務めを始めました。

本書では、御台様の身の回りの世話や御台様のお部屋を芸事などで盛り立てる「御次(おつぎ)」、大奥の文書係である「祐筆」、奥女中たちの衣装を整える「呉服の間」、掃除、洗濯、水仕事などの力仕事を行う「御末(おすえ)」など、多種多様な仕事に就く女性たちが登場します。

里にいたときに、武家の規矩に生き辛さを感じていたり、ある出来事をきっかけに成り行きに任せて逃げ出してきたり、何かしらの事情やコンプレックスを抱いて大奥にやって来た女性が少なくありません。
彼女たちが大奥でどのように仕事に励み、日々を過ごしているのかが物語仕立てで綴られていきます。そして、野心をもって出世を目指す原動力となっているのは何かを描き出しています。

仕事に行き詰ったときに読むと、元気の出る、江戸のお仕事小説です。

大奥づとめ よろずおつとめ申し候

永井紗耶子
新潮社・新潮文庫
2021年5月1日発行

カバー装画:卯月みゆき
デザイン:新潮社装幀室

●目次
ひのえうまの女
いろなぐさの女
くれなゐの女
つはものの女
ちょぼくれの女
ねこめでる女

本文334ページ

単行本『大奥づとめ』(新潮社、2018年7月刊)を文庫化したもの。

■Amazon.co.jp
『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』(永井紗耶子・新潮文庫)

永井紗耶子|時代小説ガイド
永井紗耶子|ながいさやこ|時代小説・作家 1977年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。 新聞記者を経て、フリーランスライターとして活躍。 2010年、「恋の手本となりにけり」(2014年、文庫刊行時に『恋の手本となりにけり』と改題)...