『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』|倉本由布|ハヤカワ時代ミステリ文庫
倉本由布(くらもとゆう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。
『寄り添い花火』に続く、「薫と芽衣の事件帖」シリーズ、待望の第2弾です。札差の娘にして岡っ引きの薫と、同心の娘なのに薫の下っ引きをする芽衣、ともに十五歳の二人が様々な騒動の謎を解き明かす、大江戸少女捕物小説です。
いつも一緒のはずなのに、どうにもぎくしゃくしている――岡っ引きの薫と、薫の下っ引きをする芽衣のあいだがちょっとおかしい。薫は芽衣を避け、芽衣は独りで頼みごとを引き受けることになったのだ。お稽古ごと仲間の父親が年の離れた若い女に逢っていて、女には小さな子どもがいるらしい。まさか隠し子? 芽衣は薫ぬきで謎を解こうとするが……。互いを好きすぎてすれちがうこともたまにはある、薫と芽衣の友情事件帖。
(カバー裏の内容紹介より)
薫は、北町奉行所の同心見習いの内藤三四郎とともに浅草寺境内を見回っていると、水茶屋の葦簀の陰で身を潜めている芽衣を見つけました。
しかし、声を掛けずに立ち去りました。
芽衣は、同じ八丁堀に住む稽古ごと仲間の梅乃と一緒に、二人が出てきた水茶屋を探っていました。
梅乃は先日、父の大沢勘太郎が水茶屋の若い女将とこっそり遭っていて、女将の小さな子どもとも仲睦まじくしていろところを偶然に見てしまった言います。
子どもが父の隠し子ではないかと疑った梅乃は、捕物上手の薫の知恵を借りたいと、芽衣に声を掛けました。
「薫さんの知恵をお借りできたなら、私にもその謎が解けるのではないかと思って」
というわけで、梅乃はやって来たのだ。
芽衣は、しばらく黙っていた。充分に考えた。そして、そのあと、
「なるほど――わかりました」
厳かに頷く。
「でもね、薫さんが引き受けてくださるかどうかはわかりません。薫さんは、お上から十手を預かる岡っ引きなんです。私たちがさまざまな事件の探索に当たるのは、遊びではないの」
(『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』P.33より)
芽衣は、薫に内緒で独りで梅乃の依頼ごとを果たそうとします。
お互いのことが好きで思いやり合う薫と芽衣はベストパートナーですが、時にはその思いが強すぎて気を回しすぎて空回りすることも。
でもそんな姿も微笑ましい友情捕物帖です。
第四話に収録された「風待ちの日々」では、三年前、薫が十二歳だった冬の話が描かれています。
十歳で母を亡くした薫はその後、父親である札差・森野屋の主に引き取られ、ひとり、離れで暮らしていた。
『大丈夫ですよ、薫さん、芽衣がここにいますからね』
そう言っていたくせに、十一歳の薫のそばに、芽衣はいない。
薫の母が亡くなった、あの事件の後、ふたりは一度も会っていない。
(『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』P.242より)
第1巻『寄り添い花火』では、薫と芽衣の出会ったころに起きた事件が描かれていましたが、本書では、薫が捕物に手を染めるようになった事件が紹介されています。
友情がどのようにして育まれていったか、時には想いが揺らぐこともある、思春期の二人も描かれていきます。
第一話の梅乃をはじめ、第二話の「姫君さまの犬」に登場する、三河国豊城藩藩主の娘、琴や、第四話の「風待ちの日々」で重要な役割を演じるお加奈と、本書では薫と芽衣のほかにも、印象的な少女たちが登場します。
十五歳の娘二人が、同心の岡っ引きと下っ引きとなって活躍するという、現実にはあり得ないような設定ですが、本書で描かれている事件は、この二人が探偵役でないと解き明かせないと思わせてくれます。
長年、少女小説で活躍してきた著者ならではの筆力のせいでしょうか。
年甲斐もなく胸がキュンキュンする、捕物小説です。
風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖
倉本由布
早川書房 ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年4月15日発行
カバーイラスト:あわい
カバーデザイン:大原由衣
●目次
第一話 日々是好日
第二話 姫君さまの犬
第三話 薫さん、富籤をかう
第四話 風待ちの日々
本文319ページ
本書は、文庫書き下ろし。
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『寄り添い花火 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1作)
『風待ちのふたり 薫と芽衣の事件帖』(倉本由布・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2作)