『あかね紫』|篠綾子|集英社文庫
篠綾子さんの長編歴史時代小説、『あかね紫』を入手しました。
本書は、『源氏物語』の作者・紫式部の娘、藤原賢子(ふじわらのかたこ)が活躍する、王朝時代小説です。
夏山かほるさんの『源氏五十五帖』では、賢子は、菅原孝標の娘・更級とコンビで幻の紫式部の原稿を探して旅をします。最近、気になっている歴史人物です。
平安京に遷都して、二百年ばかり。紫式部の娘・藤原賢子が仕える中宮彰子の息子が後一条天皇となった。そんなある日、賢子、小式部、中将の君のライバル三人娘に、あこがれの藤原頼宗から妙な依頼が。訳も分からず快諾をしてしまうが、なんと男女入れ替わって振る舞う妹と弟を元に戻してほしいというのだ。しかも、時の権力者・藤原道長からの至上命令だと……。ドタバタ三人娘が活躍する時代小説。
(本書カバー裏の内容紹介より)
長和六年(1017)春、後一条天皇の御代。
皇太后彰子に仕える、藤原賢子、中将の君、歌人として名高い和泉式部の娘小式部の、同い年の女房三人娘は、権中納言藤原頼宗から、「実は、仲が良いあなた方を見込んで、折り入って頼みたいことがある」と妙な依頼を受けました。
「先日のことですが、わが父(道長)がこう申しました。『今の世に取り替えたいものが二つある』と」
「二つ、でございますか」
賢子は呟きながら、考えをめぐらしていた。
一つは、容易に想像がつく。まかり間違っても、口に出せるような内容ではなかったが……。
(摂政さまは、東宮さまの首を挿げ替えたいとお思いなのだわ)(『あかね紫』P.19より)
もう一つ、取り替えたいのは、頼宗の末弟小若君と、異母妹の六の君のことでした。母を違いながらも、ともに道長を父にしていて、驚くほど顔がよく似ています。
十三歳の小若君は男でありながら、少女のように振る舞いたがり、十一歳になる六の君は姫でありながら、男子のごとく振る舞いたがります。道長が願っているのは、この二人の男女の別をそっくり入れ替えたいということでした。
小若君の元服を夏に控えていて、邸の奥から外へ出ずに女房たち以外の者とは顔を合わせず暮らしてきた「姫君」を、男たちに交じって暮らしていけるよう、それまでにしつけ直せと。
トンデモない難題ながら、『源氏物語』の主人公になぞらえて「光君」と呼ばれる、絶世の美男子で宮中であこがれの存在、頼宗からの依頼に、三人娘は思わず快諾してしまいました。
男性と女性が入れ替わる平安時代の物語『とりかへばや物語』、そのままのシチュエーションを、賢子ら三人娘はいかにして解決していくのでしょうか。
道長の時代は、紫式部や清少納言、和泉式部ら女性の文人が活躍する時代でもあり、物語では当時のおおらかな恋愛事情も垣間見ることができます。
上から下まで完璧な身ごなしで越後弁(えちごのべん)を名乗る、しっかり者の賢子、どことなく危うげな大人の色気を漂わせる小式部、小柄で童顔なため幼く見える中将の君。
仲良しながらも恋のライバルとして火花を散らすこともある、三人娘の掛け合いも楽しい、ちょっとコミカルな平安王朝絵巻が楽しめます。
あかね紫
篠綾子
集英社 集英社文庫
2021年2月28日 初版1刷発行
カバーデザイン:篠田直樹(bright light)
イラストレーション:イズミタカヒト
目次
一章 道長一家の隠しごと
二章 とりかへばや 其の一
三章 愛しき人
四章 紫の瑞雲
五章 とりかへばや 其の二
六章 忘れがたき人
七章 宇治往来
八章 望月の歌
九章 とりかへばや 其の三
十章 あかねさす
解説 大矢博子
本文334ページ
文庫書き下ろし。
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『あかね紫』(篠綾子・集英社文庫)
『源氏五十五帖』(夏山かほる・日本経済新聞出版)