『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』|金子成人|双葉文庫
金子成人(かねこなりと)さんの文庫書き下ろし時代小説、『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』(双葉文庫)をご恵贈いただきました。
女手一つで、3人の子供を育てるお勝を中心に、根津権現門前町の裏店『ごんげん長屋』の住人たちが繰り広げる、人情長屋小説シリーズの第二弾です。
根津権現界隈を舞台にした作品というと、西條奈加さんの『心淋し川(うらさびしがわ)』も想起しますが、市井人情もの舞台として格好の場所の一つです。
徳川将軍家の手厚い保護もあって、祭礼や縁日、つつじや紅葉見物と四季折々の行楽に多くの人々が訪れる名所でもあり、岡場所のある花街もあって、いろいろな人々が集い暮らす場所でもあります。
年の瀬を迎え、『ごんげん長屋』でも住人たちが慌ただしい日々を送る中、樽ころをしている国松の女房おたかが倒れてしまった。身重のおたかの身を案じた長屋の女房たちが交代で世話を焼いたことで、なんとか快方に向かうが、住人の厚意に恐縮しっぱなしの亭主の国松は、お勝に意外な決意を打ち明けてくる――。くすりと笑えてほろりと泣ける、これぞ人情物の決定版。時代劇の超大物脚本家が贈る、落涙必至のシリーズ第二弾!
(カバー裏の内容紹介より)
お勝が番頭を務める、根津権現門前町の質舗『岩木屋』には、慌ただしくなる師走を前に、おかしなお客もやってきます。
客は四十あまりの男で、珍しい鳥を預けたい、北の異国から飛来する珍重なる洋鳥で、三十両で預かってもらいたいと、あまりの言い値を悪びれずに真顔で言いました。
お勝は、生き物は預かれない、まして貴重なお鳥様など恐れ多くてと遠慮しますと断り、押し売りを撃退しました。
お勝は、目明しの作造から三十半ばぐらいの侍が、大森源五兵衛という浪人を探しているという話を聞きました。年恰好や体格、風貌を聞くと、よく似た人物に思い当たりました。
同じ『ごんげん長屋』の住人で、息子の幸助と娘のお妙が字を習っている手跡指南所の師匠沢木栄五郎でした。
お勝は手跡指南を終えたばかりの栄五郎に「根津界隈で、大森源五兵衛という浪人を探しているお侍がおります」と単刀直入に切り出しました。
「それで、この前、神主屋敷の四つ辻で、追ってきた三十半ばの侍から身を隠していた沢木さんの様子を思い出して、お話を伺おうと思ったのでございます」
お勝の声は穏やかで、ことさら栄五郎を問い詰めるような口ぶりではない。
だが、栄五郎は大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。
「そこまで知られているのなら、何も言いますまい。このまま、『ごんげん長屋』を出ていくことにしますよ」
「それは、どうして」
瞠目したお勝は驚きの声を上げた。
(『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』「第一話 天竺浪人」P.48より)
やがて、栄五郎の秘密にしていた過去が明らかになっていきます。
話の中で長屋の大家が栄五郎を「天竺浪人」かもしれないという言葉が耳に残りました。浪人となって行方をくらませた者を「逐電浪人」と言い、「ちくでん」をひっくり返した「てんぢく」に海の彼方の「天竺」を当てた言葉だそうです。
「ゆく年に」という話を収録した、今回の連作物語は、文化十五年(一八一八)の十一月二十日から始まり、大晦日に終わります。
煤払いや歳の市、餅搗きと、年の瀬を過ごす江戸の庶民の生活が生き生きと描かれています。
心に沁みる、良質の人情物語をしみじみと味わいたいと思います。
ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に
金子成人
双葉社 双葉文庫
2021年3月14日第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:寒水久美子
カバーイラストレーション:瀬知エリカ
●目次
第一話 天竺浪人
第二話 悋気の蟲
第三話 雪の首ふり坂
第四話 ゆく年に
本文269ページ
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『ごんげん長屋つれづれ帖(一) かみなりお勝』(金子成人・双葉文庫)
『ごんげん長屋つれづれ帖(二) ゆく年に』(金子成人・双葉文庫)
『心淋し川』(西條奈加・集英社)