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江戸の長屋は心霊現象がいっぱい、事故物件に挑む損料屋兄妹

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『損料屋見鬼控え 1』|三國青葉|講談社文庫

損料屋見鬼控え 1三國青葉(みくにあおば)さんの文庫書き下ろし時代小説、『損料屋見鬼控え 1』(講談社文庫)をご恵贈いただきました。

著者は、2012年「朝の容花」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。その後、時代小説やライトノベルで活躍されています。

文政元年(一八一八年)、損料屋(レンタルショップ)巴屋の惣領息子・又十郎は、十七歳で幽霊が見えるという能力に目覚めてしまう。また、義妹の天音は残留思念を聞くことができた。不思議な力を持つ兄妹が恐れおののきながらも、江戸の事故物件が引き起こす事件を解決してゆく……。書き下ろし霊感時代小説。

(『損料屋見鬼控え 1』カバー裏の内容紹介より)

又十郎は、両国橘町にある損料屋巴屋のひとり息子ながら、奉公人がいないので、十七歳なのにまだ丁稚扱いです。

損料屋とは、損料(賃貸料)をとって品物を貸し出す店で、江戸のレンタルショップといったところ。扱うものは、着物や夜具、鍋釜、家財道具など多岐にわたっていました。なんと、ふんどしまで借りることができました。

又十郎は、長屋でトン……トン……という変な音がすると住人から文句が出ていると、大家の源蔵から頼まれ、その部屋を調べることになりました。

 その瞬間あたりの気配が、襖からくりがぱたりと返るがごとく一変する。う、これはまずい……。突然己の心にわきおこった嫌な気分に、又十郎は立ちすくんだ。
 小さいころから幾度も覚えがある、しかしけっして慣れることのない、なにかがじわりと染み入ってくるような、胸苦しさを伴うこの独特な感じ……。
 幽霊がいるのか? 目をつむりたくなるのを必死にこらえて、又十郎はあたりを見回した。
 奥の障子の横の壁のところに、黒い霧のようなものがもやもやとわだかまっている。ああやっぱり、またあ。心ノ臓がとくんとはねる。

(『損料屋見鬼控え 1』P.16より)

又十郎は、見鬼(けんき)という霊を見ることができる特殊な能力を持っていました。
ばくち好きの元お店者の佐吉が住むその部屋で、十八歳くらいの女の幽霊がでんでん太鼓を持って、くるくる回しているのを見ました。

又十郎と血のつながらない妹で十歳になる天音は、物の残留思念を聞くことができる能力を持っていました。
ある悲しいことを経験して、損料屋に引き取られてきたばかりの妹天音と又十郎の出来立ての兄妹が次第に心を通わせていくところも読みどころです。

又十郎と天音は、元定町廻り同心の沢渡伝兵衛らの協力を得て、幽霊になった女の正体を探っていきます。

長屋で起こる心霊現象を調べ、事故物件が引き起こす事件を解決してゆく話と紹介すると、何やらとても怖い話のように聞こえるかもしれません。
が、本書で登場する幽霊たちは、この世に未練を残して亡くなったために、天国にも地獄にも行けない可哀そうな身の上ばかり。

又十郎は、幽霊たちに心を寄せ、この世で果たせなかったことを探り出して、解決して成仏してもらうために奔走します。その正義感と優しさに癒され、心がじんわりと温かくなる、誰かにやさしくしたくなるような物語です。
第2巻の発行が楽しみになりました。

損料屋見鬼控え 1

著者:三國青葉
講談社文庫
2021年2月16日第1刷発行
文庫書き下ろし

カバー装画:こより
カバーデザイン:鈴木久美

●目次
第一話 犬張り子
第二話 菖蒲打ち
第三話 朝顔
余話 天音の本音

本文216ページ

文庫書き下ろし

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『損料屋見鬼控え 1』(三國青葉・講談社文庫)

三國青葉|時代小説ガイド
三國青葉|みくにあおば|時代小説・作家 神戸市出身。お茶の水女子大学大学院理学研究科修士課程修了。 2012年、「朝の容花(かおばな)」で第24回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、『かおばな憑依帖』と改題しデビュー。 ■時代小説SH...