『六莫迦記 穀潰しの旅がらす』|新美健|ハヤカワ時代ミステリ文庫
新美健(にいみけん)さんの文庫書き下ろし時代小説、『六莫迦記(ろくばかき) 穀潰しの旅がらす』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)をご恵贈いただきました。
本書は、『六莫迦記 これが本所の穀潰し』に続く、本所の二百石取りの小身幕臣の葛木家の六ツ子が、ハチャメチャな騒動を繰り広げる、ユーモア時代小説シリーズの第2弾。本格的なスラップスティック・コメディが楽しめる時代小説です。
日本語では「ドタバタ喜劇」と訳される、「スラップスティック・コメディ」は、映画やマンガでは見かけますが、時代小説ではほとんどありません。
葛木家の六ツ子は“ある事情”で江戸から旅に出された。『東海道中膝栗毛』を気取り意気揚々、苦難の連続を各々の個性で乗り切るも、六人の後をつける魔の手が迫る! いつのまにやら伊勢参りが逃避行になり、さらには謎の追手に追われる美少年二人が眼前に! 六人兄弟が助けた彼らには、幕藩体制をも驚かす不可思議な秘密が……六ツ子たち、命懸けの大冒険。汗と涙、兄弟間の芦野引っ張り合いが楽しい、ユーモア時代小説。
(本書カバー帯の紹介文より)
葛木家の六ツ子は、上から逸朗、雉朗、左武朗、刺朗、呉朗、碌朗。
目鼻の造作に疎漏なく、のっぺりとした締まりのない面構えで、背格好も大差なく、平凡にして中庸で、異なったところのない、一卵性の双生児、いや六生児です。
妄想好きの長男・逸朗、傾奇者の次男・雉朗、撃剣莫迦の三男・左武朗、『葉隠』に夢中の四男・刺朗、金子に目がない五男・呉朗、町人かぶれの末弟・碌朗と莫迦揃いです。
二十歳になった六ツ子は、知や技を磨くための学問所や剣術道場に通うわけでも、内職をして家計を助けるわけでもなく、ひたすら面白可笑しく遊んで暮らしていました。
第2弾の本書では、六莫迦は、とある事情から江戸から旅に出されることになりました。
『喜べ。そのほうらに伊勢参りをさせてやろう。なにゆえ怪訝な顔をするか? ははっ、かわいい穀潰しには旅をさせよと申すではないか。旅に入り用な品は、すでに安吉がそろえておる。夜が明け次第に出立せい』
驚きはしたが、たしかに六ツ子たちは喜んだ。(『六莫迦記 穀潰しの旅がらす』 P.16より)
父に命じられて、下男の安吉と孫娘の鈴を共に、嵐の中、伊勢参りの旅に出立しました。ところが、東海道でもなく、中山道でもなく、六ツ子たちは日光街道を歩いていました。
途中で、謎の追手に追われる美少年二人と連れになって、旅は命懸けの大冒険となっていきます。
六人兄弟は「おそ松くん」のように同じ顔をしていながら、それぞれに違う莫迦ぶりが描き分けられていて、物語をハチャメチャに引っ掻き回していきます。
江戸を離れて迷い込んだ異界で、六莫迦ぶりはさらにパワーアップして、ますます面白く目が離せません。
何ともユニークで、癖になるユーモア時代小説シリーズです。
六莫迦記 穀潰しの旅がらす
新美健
早川書房・ハヤカワ時代ミステリ文庫
2021年2月15日発行
カバーイラスト:川上和生
カバーデザイン:早川書房デザイン室
●目次
序 六ツ子、お江戸を逐われる
一話 穀潰し三度笠
二話 莫迦の助太刀
三話 異界と魔境
四話 莫迦こそ英雄なり
五話 反攻
六話 六ツ子の国盗り
結 穀潰しの帰還
本文262ページ
文庫書き下ろし
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『六莫迦記 これが本所の穀潰し』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第1弾)
『六莫迦記 穀潰しの旅がらす』(新美健・ハヤカワ時代ミステリ文庫)(第2弾)