『脳科学捜査官 真田夏希 エキサイティング・シルバー』|鳴神響一|角川文庫
鳴神響一(なるかみきょういち)さんの文庫書き下ろし現代ミステリー、『脳科学捜査官 真田夏希 エキサイティング・シルバー』(角川文庫)を紹介します。
本書は、神奈川県警で心理職特別捜査官をつとめる、真田夏希が凶悪な事件に遭遇して活躍する警察小説「脳科学捜査官 真田夏希」シリーズの第8弾。
本書は、第7弾の『脳科学捜査官 真田夏希 デンジャラス・ゴールド』と同時に刊行されました。
『デンジャラス・ゴールド』では、天才ホワイトハッカー・龍造寺ミーナの誘拐事件が描かれていました。
その誘拐事件が未解決のまま、本書に突入しました。
神奈川県警刑事部根岸分室の警視・上杉輝久の許に、警察庁理事官の織田信和が突如訪ねてきた。警察庁の同期で公安部に所属する北条直人が任務中にフランスで行方不明になったというのだ。警備局長の意向を汲んだ織田は、上杉と共に彼を探してほしいという。2人は、互いの友人のため、危険な捜査に乗り出すのだが……。僅かな手がかりを追って海外へ飛ぶ2人を待ち受けるものとは。「ゴールド」の事件の全貌が明かされる!
(本書カバー裏紹介より)
本書では、謎の多い国際的な犯罪組織《ディスマス》の情報収集中に、フランスで姿を消した、警察庁のキャリア官僚・北条直人の行方を、警察大学校で同期だった、織田信和と上杉輝久が追います。
警備局長から織田は、フランスで消息を絶ち、3カ月以上行方不明となっている北条の生死を突き止めて、彼がつかんだ情報を入手するように命じられました。
「手伝ってくれるか」
織田の目は真剣そのものだった。
「北条は俺にとっても仲間だ。捜すよ」
「その言葉を待っていた」
「だけど、金はどうするんだ。渡航費用、宿泊費、情報を得るのにも金が要る。そんな金はもってないぞ」
「心配するな。官房機密費から支出できる」(『脳科学捜査官 真田夏希 エキサイティング・シルバー』P.16より)
今話題の官房機密費はこんな遣われ方をしていたかもしれませんね。
織田は、同じく同期で友人でもある、上杉に、「一緒に捜してほしい」と頼みました。
命を懸けた危険な話だと諭されますが、生命の恩人である北条を救いたいという織田の思いを汲み取り、上杉は手伝うことにしました。
男同士の友情が古き良きフランス映画のようでワクワクさせられました。
二人は絵画の贋作事件を手がかりに日本を飛び出し、フランスのパリ、イタリアのミラノ、モロッコの砂丘の村メルズーガ、アメリカのサンフランシスコと、ワールドワイドな聞き込みを続けます。
二人は、事件の背景に凶悪な国際犯罪組織《ディスマス》の存在があることを突き止め、北条が組織に迫っていたことを知ります。
エリート官僚とはみだし刑事の凸凹コンビによる珍道中は、危険がいっぱいで、ハリウッドのアクション映画のようなハラハラドキドキの連続です。
コロナ禍で海外に出るのは困難な状況ですが、フィクションなので自粛なしに異国情緒を堪能できました。
『エキサイティング・シルバー』は、シリーズのスピンオフ作品のように、織田と上杉の活躍ぶりを遠慮なく描いていきます。
織田らが掴んだ《ディスマス》の情報が、ミーナ誘拐事件にリンクしていき、夏希の見せ場もちゃんと用意されていました。
夏希の沼にはまって、「ゴールド」から「シルバー」へと、一気読みしました。
時代小説ファンとして著者に時代小説も書いてほしいと願っていますが、現代ミステリーも面白いので、今は少し我慢しようと思います。
脳科学捜査官 真田夏希 エキサイティング・シルバー
鳴神響一
KADOKAWA 角川文庫
2021年1月25日初版発行
文庫書き下ろし
カバー写真:RUNSTUDIO/ The Image Bank/ Getty Images
カバーデザイン:舘山一大
●目次
第一章 織田の願い
第二章 ワールドワイドな聞き込み
第三章 チャイナタウンの憂鬱
第四章 北条直人の奇跡
第五章 ミーナの知力
本文269ページ
■Amazon.co.jp
『脳科学捜査官 真田夏希』(鳴神響一・角川文庫)(第1弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 デンジャラス・ゴールド』(鳴神響一・角川文庫)(第7弾)
『脳科学捜査官 真田夏希 エキサイティング・シルバー』(鳴神響一・角川文庫)(第8弾)