『三味線鯉登』|永瀬三吾|捕物出版
永瀬三吾(ながせさんご)さんの捕物小説集、『三味線鯉登(しゃみせんこいと)』オンデマンド本をご恵贈いただきました。
ウィキペディアで確認できなかったので、一般社団法人日本推理作家協会の会員名簿で確認したところ、永瀬三吾さんは物故会員(1902~1990)に登録されていました。
1955年に第8回日本推理作家協会賞日本探偵作家クラブ賞を受賞した「売国奴」は、戦前の中国大陸を舞台にしたスパイものだそうです。
「売国奴」で日本探偵作家クラブ賞を受賞し、「宝石」誌の編集長も勤めた推理作家、永瀬三吾の代表的な捕物小説。
岡っ引が捕えた下手人を、証拠を覆して真犯人を突き止めるというパターンの連作集。無理のない論理展開と軽いタッチの捕物帖のバランスが絶妙な捕物小説の傑作。
昭和26年発表の「辰巳うらない」から昭和30年の「花小紋殺し模様」に至る短篇18編、掌編1編を収録。
(Amazonの内容紹介より)
本書の主人公鯉登(こいと)は辰巳の三味線師匠で芸者、本名は小糸。江戸末期、深川生まれで武士の娘です。
お座敷をつとめるかたわらで、定廻同心の桐形月之進の組下・魚介(うおすけ)から、事件の経緯を聞いて、すらすらと謎を解き犯人を言い当ててしまいます。
室町の呉服屋の一人娘お里と神田で同じ呉服屋の一人息子藤太郎は、四五日のちに祝言を控えて、浅草観音詣に出かけました。
その帰り蔵前の掛茶屋で、お里は池の端の水茶屋の女からの手紙を藤太郎に見せて別れてくれと哀願しました。
その後、二人は掛茶屋を出て、お里を駕籠へ乗せて帰し、藤太郎も四時前には家に帰ったといいます。
ところが、翌朝、二人が休んだ蔵前の掛茶屋の店先に、お里は無残な絞殺死体となって見つかりました。
目明しの鴨下金十郎は、藤太郎が池の端の女と共謀してお里を殺したと疑い、弔問に訪れた藤太郎に縄を打ち番屋へ引き立ててしまいました。
そこへ、髪は銀杏返し、齢は十九か二十でしょうが、小豆地に桜の小紋を散らした単衣を軽く着こなした渋い年増好みのつくり。そしてこれが小またの切れあがった女というのでしょうか、気っぷをなりにすっかりあらわして、きりッと隙のない美人が店先きに立ちました。
(『三味線鯉登』「辰巳うらない」P.8より)
アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)のように、現場に赴くことをせずに、魚介からの情報をもとに推理することが多い鯉登ですが、初登場となる「辰巳うらない」の話では、現場に登場して、事件解決の糸口をつかみました。
理路整然とした鯉登の推理を、月之進や魚介は辻占とかお御籤とかと呼んで、大いに当てにしているのが面白いところです。
本書の解説を文芸評論家の細谷正充さんが執筆され、わかりやすく物語の背景をガイドしています。
第二次世界大戦後、捕物帳がブームになった作品が執筆された当時の日本の状況に触れる指摘は目からウロコでした、
GHGの占領政策の一環の影響を受けてチャンバラ物や仇討物が制限された一方で、山手樹一郎さんらの明朗物も同じような事情から人気になったんですね。
捕物出版のTwitterによると、「売国奴」も中国語文化圏を舞台とする探偵・冒険小説等を扱う別レーベル「大陸書館」で単行本化を計画されています。こちらも楽しみです。
三味線鯉登
永瀬三吾
捕物出版
2021年1月20日 オンデマンド版初版発行
表紙装画:富田千秋(public domain)
「三味線鯉登 たのまれ河童」の挿画より
別冊宝石第七巻第七号
目次
辰巳うらない
尻っぽ餅
淫ら者ぞろい
狐を化かす女
意地を張り弓
あやめ尽し
合羽大仏
夢日傘
雪わり草
濡れ鼠
投げ簪
功徳四万六千日
飛んだ六部笠
桜折る猿
たのまれ河童
だまされ菊五郎
坊主の髷
花小紋殺しの模様
鯉登の錦絵
解説 細谷正充
本文343ページ
本書収録作品は、同星出版社『鉄火娘参上』(1959年)、世界社「実話講談の泉」昭和26年11月号(1951年11月刊)、岩谷書店「別冊宝石」通巻30号、36号、40号、44号、47号、49号(1953年~1955年)、荒木書店「読切小説集」臨時増刊号(1953年)等を底本に、オンデマンド版として再編集したもの。
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『三味線鯉登』オンデマンド本(永瀬三吾・捕物出版)