『流人道中記(上・下)』|浅田次郎|中央公論新社
浅田次郎さんの長編歴史時代小説、『流人道中記(上・下)』(中央公論新社)を紹介します。
本書は、ebook japanの電子書籍版『流人道中記(合本)』で読んでみました。
Kindleでの電子書籍の読書はよくやりますが、ebook japanの電子書籍は、PCのブラウザ上からで、慣れていないために通常よりも読むのに時間がかかりました。
それでも電子書籍には、紙の本にないメリットがあります。
(1)読みたくなったらすぐにダウンロードで入手できること。
(2)スマートフォンでも読めるので、いつでもどこでも読めること。
(3)保管場所が物理的に取られないこと。←家族から冷たい目で見られない
(4)絶版になりにくいこと。←品切れや絶版本も読めるのはありがたい
(5)通常少し(セールやキャンペーンによっては大幅に)安く入手できること。
と言いながらも、実は紙の本のもつ質感が大好きです。
妄想を駆り立て読書欲をそそる装画、緻密にデザインされた装幀など、私にとってはアートであり工芸品であります。
読売新聞朝刊連載で話題沸騰。日本中を涙で包んだ感動作。万延元年(1860年)。姦通の罪を犯したという旗本・青山玄蕃に、奉行所は青山家の所領安堵と引き替えに切腹を言い渡す。だがこの男の答えは一つ。「痛えからいやだ」玄蕃には蝦夷松前藩への流罪判決が下り、押送人に選ばれた一九歳の見習与力・石川乙次郎とともに、奥州街道を北へと歩む。口も態度も悪い玄蕃だが、道中で行き会う抜き差しならぬ事情を抱えた人々を、決して見捨てぬ心意気があった。この男、仏か、罪人か?
(ebook japanの説明文より)
万延元年、桜田騒動の公事で公儀が大わらわな中で、姦通という破廉恥な罪を犯した、三千石の大身旗本・青山玄蕃に切腹が言い渡されました。ところが、玄蕃は間違っているのは御法で、自裁するほどの悔悟はなく、切腹は嫌だと申し渡しを拒否しました。
困った幕閣は検討を重ねた結果、玄蕃を、闕所の上、蝦夷福山を領知する松前伊豆守に身柄を預ける処分としました。
数え十九で見習与力の石川乙次郎は、奉行から口達で、青山玄蕃なる罪人を津軽三厩の湊まで押送するように命じられました。
三十俵二人扶持の御先手鉄炮組同心の次男坊に生まれて、武芸に秀でていることから、町奉行所与力から婿養子の声が掛かり、半年前に、卒中に倒れた当主の跡を継ぐために石川家に入りました。
石川家には病床の父のほかに、母と十五になる娘で顔も姿も幼い、乙次郎の妻きぬがいます。
奉行からの下達のあった翌、七月十七日、乙次郎は囚獄奉行の石出帯刀より、青山玄蕃なる罪人を受け取り、老同心の田中弥五郎を供に押送の旅に出ました。
ところが、同行の弥五郎が、江戸を出たばかりの千住掃部宿で押送人を止めて逐電し、流人青山玄蕃、押送人石川乙次郎の二人の奇妙な旅が始まりました。
僕は青山玄蕃に向き合って言った。
「旅を続ける。押送人はそれがしひとりゆえ、そこもとも面倒をかけてくれるなよ」
ほほォ、と玄蕃は僕を見つめた。決心が意外だったらしい。
「今の南町奉行所は役者揃いと聞いていたが、いや、噂にたがわねえなあ。押送人が途中でずらかる、か。で、相方は引き返さずに旅を続けるってか。まさかお縄を打たれて猿回しの旅じゃあるめえな」」
(電子書籍『流人道中記(合本)』154/1280より)
長旅は初めてどころか、江戸を出たこともない、乙次郎に対して、若い頃に日光社参の御供をしたことがあるという世慣れた玄蕃が旅程を決めて宿を決めていきます。
三十半ばで余裕十分で貴人然とした玄蕃と、二十歳そこそこで生真面目で直情的な乙次郎は、流人と押送人に見られず、奇妙な二人連れと思われたり、公儀の役人や主従と間違われたりします。
旅の道中で、大泥棒に遭遇したり、仇討ちに巻き込まれたりします。口も態度も悪い玄蕃ですが、抜き差しならない事情を抱えた人々に対して、温かくも世知に長けた手を差し伸べます。
対照的に生真面目で余裕がない乙次郎は、玄蕃と旅をともにし衝突しながらも、世間を知り、人を知ることで、成長していきます。
「武士」とは何なのか。「家」とは何のなのか、悩み苦悩する乙次郎に答えは出せるのでしょうか。
そして、江戸から三厩まで、二百幾十里、片道ひと月の旅の先にあるものは何なのでしょうか。
日々の生活に息苦しさを感じる人に元気を与えてくれる、人情が通い合う素敵な空間に誘う、大人を癒してくれる時代小説です。
流人道中記(上)
浅田次郎
中央公論新社
2020年1月1日発行
装画:宇野信哉
装幀:中央公論新社デザイン室
絵地図:石橋富士子
●目次
なし
単行本:上巻371ページ、下巻294ページ
初出:読売新聞朝刊 2018年7月1日~2019年10月13日
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『流人道中記(上)』(浅田次郎・中央公論新社)
『流人道中記(下)』(浅田次郎・中央公論新社)
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電子書籍『流人道中記(合本)』