『身代わり忠臣蔵』|土橋章宏|幻冬舎時代小説文庫
土橋章宏(どばしあきひろ)さんの長編時代小説、『身代わり忠臣蔵』(幻冬舎時代小説文庫)を入手しました。
2020年最後の投稿となりました。1年間、ご愛読いただきましてありがとうございます。
新型コロナウイルスによって翻弄された1年ですが、テレワークやステイホームのおかげもあって、時代小説に費やす時間を増やすことができました。
12月というとやはり「忠臣蔵」が気になります。
とはいえ、世間ずれしてきたせいか、昔の時代劇のような「赤穂義士」としての忠義一転張りの描き方には違和感を抱いています。
本書は、『超高速! 参勤交代』などコミカルなユーモア時代活劇で活躍している著者が取り組んだ忠臣蔵小説です。
浅野内匠頭が吉良上野介を襲い切腹。赤穂浪士らは復讐を誓う。ところが、吉良が急死してしまい、家臣らはたまたま金の無心にきていた亡き主人の弟を替え玉にすることに。一方、赤穂の大石も本音を言えば、勝手に死んだ主君の為に討ち入りなんてしなたくない。だが、世間がそれを許さない。偽者の吉良と不忠の大石が繰り広げる笑って泣ける忠臣蔵。
(カバー裏面の説明文より)
元禄十四年(1701)三月十三日、江戸呉服橋近くにある、吉良上野介の屋敷。
上野介の弟で早々に出家させられながら、修行をろくにせず、博打と安い岡場所の女に溺れ、破戒僧となった、末弟の考証(たかあき)が金の無心に訪れたまま居座っていました。
上野介の目下の悩みは、赤穂藩主、浅野内匠頭が勅使饗応の指南料をろくによこさず、作法もわきまえず無礼を働くこと。
(浅野など、饗応で粗相をして成敗されればよいのじゃ)と思っていました。
浅野内匠頭は十八年前の天和三年(1683)に勅答の儀を執り行ったことがあり無事勤め上げることができましたが、今回は上野介に勅使を接待する作法をことごとく否定され、「おのれ吉良! 滅すべし」と怒り、鬱憤は溜まりに溜まっていました。
翌三月十四日、吉良上野介は松の廊下を歩いていると、向こうからやってきた浅野内匠頭に、「この間の遺恨、覚えたるか!」と小さ刀を抜いて斬りかかられました。
「はい。今すぐ、あなたさまにこの家の当主となって頂きたいのです」
いわれて、ますます混乱した。
「馬鹿な。この家の当主は兄の上野介ではないか」
「殿は先ほど江戸城において浅野内匠頭に斬られました」
(『身代わり忠臣蔵』P.24より)
刃傷の知らせは、昼に吉良の屋敷の家老小林平八郎に届きました。
内匠頭に襲われた際に、逃げて背中を斬られ、しばらく意識を取り戻さないと聞き、平八郎は、お家を守るため、考証に兄上野介の身代わりをつとめるように依頼しました。
一方、浅野家では内匠頭が即日切腹と改易という沙汰に家臣たちは打ちのめされました。女癖が悪く、短気な上に異常なほど怒りが激しく、興奮したときに胸が苦しくなる〈痞(つかえ)〉という病も患っていた藩主に、皆ひそかに不安を思っていました。
問題ばかりの主君同士、起こるべく起こった事件に、吉良家も浅野家も翻弄されていきます。
死にたくない偽者の吉良上野介と、討ち入りをしたくない不忠の大石内蔵助が繰り広げる、新感覚の忠臣蔵小説。笑って泣いて新しい年を迎えたいと思います。
身代わり忠臣蔵
土橋章宏
幻冬舎 幻冬舎時代小説文庫
2020年12月10日初版発行
カバーイラスト:松本孝志
カバーデザイン:五十嵐徹(芦澤泰偉事務所)
解説:山岸良二(考古学者)
●目次
目次なし
本文286ページ
単行本『身代わり忠臣蔵』(幻冬舎・2018年2月刊)を文庫化したもの。
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『身代わり忠臣蔵』(土橋章宏・幻冬舎時代小説文庫)