本日(11/25)、新型コロナウイルスの感染者の拡大を受けて、東京都知事から不要不急の外出は控えてという声明が出されました。
このタイミングでイベントの記事を掲載にすることにいささか違和感がありますが、学生時代から敬愛する、偉大な作家の足跡に触れた貴重な体験であり、展示は12月6日(日)まで開催されているので、レポートします。
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、11/21からの三連休はステイホームを考えていましたが、用事で出かけた先の近くにある、世田谷文学館で開催されている「没後10年 井上ひさし展――希望へ橋渡しする人」を見ました。
井上ひさしさんは、『青葉繁れる』『吉里吉里人』など、青春小説からユーモア小説、SF、教養小説、エッセイまで幅広い作品を手掛ける作家、NHKテレビ『ひょっこりひょうたん島』から始まる劇作家としての活躍が知られています。
今のように時代小説好きになる前から、大好きな作家の一人でした。
学生時代から作品を読む機会が多く、『イーハトーボの劇列車』も劇場で観たことを覚えています。
時代小説では、1972年に第67回直木賞を受賞した『手鎖心中』や吉良邸討ち入りに参加しなかった赤穂藩士を描く『不忠臣蔵』、日本を歩き尽し、実測の日本地図を完成させた伊能忠敬を描く『四千万歩の男』など、印象深い作品があります。
……絶望ずるには、いい人が多すぎる。
希望を持つには、悪いやつが多すぎる。
なにか綱のようなものを担いで、
絶望から希望へ橋渡しをする人がいないものだろうか……
いや、いないことはない。(『組曲虐殺』(「没後10年 井上ひさし展――希望へ橋渡しする人」図録より)
今回の「没後10年 井上ひさし展」は、希望へ橋渡しする人というサブタイトルがついています。
「絶望」的な状況の中でも、ほんの少しだけ上を向いてみようと思わせる、「希望」へと誘うことばが、井上作品には多くあります。
本展では、井上ひさしさんを希望へ橋渡しする人になぞらえて、作品に関する多くの展示物を通して、その事績を振り返っていきます。
ポスターのメインビジュアルは、戯曲の中から「希望」につながる言葉を約6000字分抜き出し、井上ひさしさんの肖像を形づくったものです。
展示の中で大きくフィーチャーされている、2009年10月初演の音楽劇『組曲虐殺』は、2010年4月に逝去された井上さんにとって最後の戯曲となります。
言葉の力で社会を変えようとプロレタリア文学活動に身を投じた、小林多喜二が特高警察に追われ地下活動を続ける日々を描いた芝居です。
SNSの時代になり、言葉のもつ力が逆に薄められたように思われる昨今。
幸福と平和を希求した作家・井上さんが今を生きていたら、どんなメッセージを込めて、創作活動を続けたでしょうか。
しばらく読んでいなかったので、何か読んでみたくなりました。
お願い:
「没後10年 井上ひさし展」にお出かけになられる方は、世田谷文学館の公式サイトで、最新の開催状況を確認のうえ、感染拡大予防に十分気を付けてください。
■Amazon.co.jp
『手鎖心中』(井上ひさし・文春文庫)
『不忠臣蔵』(井上ひさし・集英社文庫)
『四千万歩の男(一)』(井上ひさし・講談社文庫)