『出世商人(二)』|千野隆司|文春文庫
千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説、『出世商人(二)』(文春文庫)を入手しました。
父の遺した古店と多額の借財を返すために、店の再興に挑む、十六歳の若者を主人公にした新シリーズ。10月に第1巻『出世商人(一)』が刊行されて上々のスタートを切り、この11月に第2巻が刊行されました。
父が遺した借財の形に、己の命をかけられた文吉。返済期限の迫るなか、彼は起死回生の一手として新薬《元気丸》の商いを始める。滋養強壮の妙薬との評判に、前途洋々かと思われたが、薬を飲んだという隠居が重体となってしまう。隠居へ薬を売った覚えがない文吉だったが、何故か大番屋へと連れて行かれ――。堅忍不抜の第二弾。
(本書カバー帯の紹介文より)
文吉は急逝した父が営んでいた、小さな艾屋・三川屋を引き継ぎました。
後には多額の借財が残され、父の店を手放したくない気持ちで、病気がちの母を抱えて、文吉は新たな借金をすることに。
名の知れた薬種問屋が滋養強壮の新薬を続けて販売されました。
借金の返済期限の迫るなか、医師の手塚良庵が調製した新薬《元気丸》の販売を始め、滋養強壮の妙薬として、少しずつ評判になり始めました。
その矢先、振り売りを終えて帰る文吉は、暗がりで五人の破落戸に襲われて、殴られ蹴られて致命傷こそ避けられましたが、満身創痍に。
「神田明神前の茶店へ行ったらな、元気丸の話をしている者がいたぞ」
大きな声で話をしていたから、嫌でも耳に入ったそうな。
「どんな話ですか」
やはり気になった。
「元気丸を飲んだら、気分が悪くなったり息苦しくなったりする者があちこちにいる、という話だった」
居合わせた者たちは、頷きながら聞いていたとか。ようやく界隈で名が知れてきたから、関心を持ったらしかった。(『出世商人(二)』 P.19より)
文吉は、顧客の桶屋の隠居から、昨日あったこととして、話を聞きました。
嫌がらせとも受け取られるが、本当に具合が悪くなった者がいたのかもしれません。しかし、害毒になる成分は微塵も入っておらず、信じがたいことでした。
そして同じような話をした客がほかにもいて、三十代半ばの遊び人風の男が、周りにも聞かせるような大声であちこちで触れ回っていることを知りました。
商売敵による明らかな嫌がらせで、元気丸の売れ行きは鈍ってきました……。
文吉は危機を乗り越えることができるのでしょうか。
文庫書き下ろし時代小説の名手らしい、ツボを押さえたストーリー展開に、思わず引き込まれます。
出世商人(二)
千野隆司
文藝春秋 文春文庫
2020年11月10日第1刷発行
文庫書き下ろし
イラスト:鈴木ゆかり
デザイン:山本翠
●目次
第一章 悪意の正体
第二章 危険な丸薬
第三章 二人の逃亡
本文265ページ
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『出世商人(一)』(千野隆司・文春文庫)
『出世商人(二)』(千野隆司・文春文庫)