『承継のとき 新・軍鶏侍』|野口卓|祥伝社文庫
野口卓さんの文庫書き下ろし時代小説、『承継のとき 新・軍鶏侍』(祥伝社文庫)を入手しました。
本書は、南国・園瀬藩で軍鶏を飼いながら、藩士とその子弟たちに剣術を教える“軍鶏侍”岩倉源太夫とその家族の日常を描いた、「新・軍鶏侍」シリーズの第5作となります。
父岩倉源太夫、母みつから名を譲り受け、実子の幸司は三太夫となった。その元服を祝う剣友らとともに、三太夫は将来について語らい、胸を膨らませる。だがその裏で、三太夫が剣術を指南する次席家老九頭目一亀の嫡男鶴松には悩みがあった。それは、本心が打ち明けられる友がいないこと……(『真の友』)。齢十四の三太夫が迷い、悩みながら大人への階梯を上る、青雲の第五巻。
(カバー裏の内容紹介より)
前作『木鶏』で、源太夫の子、幸司の元服のシーンが描かれていました。
本書は、その直後から物語が始まります。
齢十四の幸司は、元服して諱(いみな)をいただき、通称三太夫に名を改めました。
次席家老の嫡男・鶴松とその稽古仲間五人は、一年以内に元服を予定されていて、一足早く元服を済ませた幸司に元服の祝福をするとともに、その手順を聞き出しました。
六人は、幸司から剣術を教わるとともに、岩倉道場で鶏合わせ(闘鶏)と若鶏の味見(稽古試合)を見学しました。
軍鶏の敏捷で多彩な闘い振りを見、源太夫の話を聞き、武芸に通じることを痛感し、だれもが軍鶏の魅力に囚われ、飼いたいと言い出しました。源太夫から雄の若鶏を与えられると、家族の許可を得て、鶏小屋など飼育のための準備をして飼い始めました。
そして、月に一度、学友たちだけで味見の会を開くことにしました。
「わしは次席家老の倅だ。子の出世を願った親が送りこんで来たのが、いわゆるご学友さまだ」
皮肉な、突き放した言い方に驚き、三太夫は思わず鶴松を見た。
「親にそのことを言われた者もおれば、ほのめかされた者もいただろう。親がなにも言わずとも、屋敷に通っていればたちまちにしてそれを感じずにいられまい。やつらは腰巾着なのだよ」
思い掛けないほど重苦しい口調であった。顔にも普段のおおらかさは、ひと欠片も見られない。
(『承継のとき 新・軍鶏侍』「真の友」P.97より)
幸司は、仲良く和気あいあいと剣に、軍鶏に取り組んでいるように見える、鶴松と学友たちの間に、一枚の幕が遮っていることを知りました。
それは道場主の息子というだけで線を引いて、門人たちのだれもそこから内側に入ってこないと感じている幸司に、共感できる思いでした。
元服し、大人への階梯を歩み始めた三太夫を中心に、物語は展開していきます。
人生の先人である大人たちからが、岐路で悩み惑う若者に、厳しくも温かな言葉をかけ背中を押します。しみじみとした余韻が残る作品です。
承継のとき 新・軍鶏侍
野口卓
祥伝社 祥伝社文庫
2020年11月10日初版第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:芦澤泰偉
カバーイラスト:村田涼平
●目次
真の友
新たな船出
承継のとき
春を待つ
本文329ページ
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『承継のとき 新・軍鶏侍』(野口卓・祥伝社文庫)(第5弾)
『木鶏 新・軍鶏侍』(野口卓・祥伝社文庫)(第4弾)