『伊達女』|佐藤巖太郎|PHP研究所
佐藤巖太郎(さとうがんたろう)さんの短編歴史小説集、『伊達女』(PHP研究所)をご恵贈いただきました。
著者は、2017年、『会津執権の栄誉』で第157回直木賞候補となり注目の時代小説家です。福島県生まれということからか、芦名家や保科家など、地元にゆかりの領主を描かれてきました。
本書は、戦国伊達家の、それも政宗と関りの深い女性たちを描くという新機軸で書かれています。
「伊達男」は、人目を引く、しゃれた身なりの男。また、侠気のある男と辞書に載っています。では、「伊達女」はどういう女を言うのでしょうか。
母・義姫、妻・愛姫、保姆・片倉喜多……、独眼竜政宗を照らし出す戦国の女たちの生き様。
母・義姫――毒を盛ったのが母だと疑っておいでなのでしょう
妻・愛姫――濡れ衣を着せられたまま、殿が平気でおられるとは思いませなんだ
保姆・片倉喜多――本当のことを言ってはならぬ。言えば、政宗の心は折れる
娘・五郎八姫――私は優しくなどありませぬ。父・政宗を気に掛ける母を見て育ちましたゆえ
真田家・阿梅――黙っていたこと、ご容赦くださいませ。ですが、お知りにならぬほうがよかったのです(『伊達女』PHP研究所 表紙カバー帯の紹介文より)
帯には、伊達の女たちを描出するにふさわしい場面から、決め台詞を抜き出しています。短い言葉の中に、心情と政宗との関係がにじみ出ていいます。
「具足の用意を」
「具足……。いかがなさるのでございますか」
「最上との国境に行きます」
「えっ……。最上に」
「早くせよ」
「はい」(『伊達女』「鬼子母――母・義姫」P.14より)
山形の領主・最上義光の妹で、政宗の母・義姫は、大崎家をめぐって戦を続ける両家の和睦をまとめるために、戦支度をして、最上家と伊達家の国境にある中山峠に行きました。
それは、本当に戦いに行くわけではなく、最上の教え――身の危険が生じたとき、恥辱よりは死を選ぶ――を実践するためでした。
やがて粗末な掘立小屋に籠る義姫。その思いが兄に通じ、和睦は叶いました。
ところが、和睦への働きが大きい義姫に対して、家中からは口出しが過ぎると非難し、中には鬼母と呼ぶものさえ現れていました。
本書では、関白秀吉に臣従するために小田原参陣を前にした政宗に、義姫が出立の祝い膳を振る舞う有名なシーンが描かれています。
そこで悲しい事件が起こりました。その結末は……。
本書を執筆するにあたって、高視聴率を誇った昭和六十二年(1987)放送のNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』から多くの恩恵を得ています。(後略)
(『伊達女』P.48より)
あとがき代わりの謝辞で、著者は執筆の経緯と参考にしたものについて触れていました。
私も、子供の頃に欠かさずに見ていたせいか、阿梅を除く四人を演じた女優さんたちは、歴代の大河ドラマの中でもっとも強く印象に残っています。
本書を読みながら、『独眼竜政宗』の女性たちを思い出しました。とくに「鬼子母」の義姫(保春院)は、厳しい中にも、たおやかさと凛とした美しさをもつ、岩下志麻さんが想起されました。
伊達男の語源となったといわれる政宗ですが、男に負けない、伊達女たちがいて形成されていったんですね。
伊達女
佐藤巖太郎
PHP研究所
2020年11月19日第1版第1刷発行
装丁:芦澤泰偉
装画:ヤマモトマサアキ
●目次
鬼子母――母・義姫
濡れ衣――妻・愛姫
釣鐘母――保姆・片倉喜多
野風の女――娘・五郎八姫
鬼封じの光――真田家・阿梅
本文262ページ
初出:「濡れ衣――妻・愛姫」は月刊『歴史街道』2018年7月~9月に連載の「愛姫」を加筆・修正したもの。
ほか4編は書き下ろし。
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『伊達女』(佐藤巖太郎・PHP研究所)
『会津執権の栄誉』(佐藤巖太郎・文春文庫)