『人を乞う』
あさのあつこさんの長編時代小説、『人を乞う(ひとをこう)』(祥伝社文庫)を入手しました。
本書は、天羽藩(あもうはん)の上士の嫡男、伊吹藤士郎の青春を描く、『天を灼く』『地に滾る』に続く、時代小説シリーズ三部作の完結編です。
藩の政が大きく変わる様を見届けるため、江戸から故郷に戻ってきた天羽藩上士の子・伊吹藤士郎と異母兄の柘植左京。家族や友と再会し、喜びに浸ったのも束の間、藩から登城せよとの命が下る。意図がわからぬまま、藤士郎と左京は揃って城に参上するが、そこで告げられたのは決して受け入れることのできない沙汰だった――。青春時代小説シリーズ。
(本書カバー帯の紹介文より)
五百石の伊吹家の嫡男として生きてきた藤士郎は、江戸で異母兄の柘植左京とともに、執政たちの政争を目の当たりにして、その行く末を見届けるために故郷に戻ってきました。
我が家に帰ってきた藤士郎は、母茂登子と姉美鶴に温かく迎え入れられましたが、その夜、若くして亡くなった剣友の五馬や、江戸で知り合い凶刃に倒れた町娘を夢見てひどくうなされました。
新しい日常を始めた藤士郎は、親友の風見慶吾と再会しました。
その一方で、罪人として処せられた父斗十郎の死にざまを胸に刻み、懸命に生きようと心に誓います。
心の内で語り掛ける。
父のようには生きない。そして、死なない。この先、自分がどんな生を選ぶのか、どんな定めに巻き込まれるのか僅かも見通せないけれど、藤士郎は心に決めていた。父とはまるで異なる生き方を手に入れ、その先に死を迎え入れる。
(『人を乞う』 P.30より)
藤士郎は、江戸に出て長屋暮らしで世間を知って一回り成長しました。
屋敷を没収され、僻村に所払いになった母と姉も、奈落を見るような生活を乗り越えて、貧しい生活の中で喜びを見出して前向きに暮らしていました。
天羽藩の政争に決着はつくのか、藤士郎や左京、そして伊吹家の人々の運命はどうなっていくのか、物語の行方が気になる、最終巻の始まりです。
人を乞う
あさのあつこ
祥伝社 祥伝社文庫
2020年10月20日初版第1刷発行
単行本『人を乞う』(祥伝社、2019年10月刊)を文庫化したもの
カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク
カバーイラスト:スカイエマ
●目次
第一章 天羽の音
第二章 光と影の狭間
第三章 闇溜まりの花
第四章 空を仰ぐ
第五章 曙の空は
終章 定め
解説 内田剛
本文336ページ
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『天を灼く』(あさのあつこ・祥伝社文庫)
『地に滾る』(あさのあつこ・祥伝社文庫)『人を乞う』(あさのあつこ・祥伝社文庫)