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わけありの女お静が始めた隠れ町飛脚は、お客の想いも届ける

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『隠れ町飛脚 三十日屋』

隠れ町飛脚 三十日屋鷹山悠(たかやまゆう)さんの文庫書き下ろし時代小説、『隠れ町飛脚 三十日屋(みそかや)』(ポプラ文庫)を入手しました。

本書は、依頼人から託された、いわくつきの品と想いを届ける隠れ町飛脚が描く、連作形式の人情時代小説です。

著者は、歴史時代小説作家の鈴木輝一郎さんが主宰する小説講座出身で、本作品で第9回ポプラ社新人小説賞奨励賞を受賞して、2020年10月にデビューしました。

長屋の腰高障子に書かれた細い月、それは「三十日屋」の印だ。三十日屋は隠れ町飛脚。お上の許しを得ずに、こっそり営む飛脚屋である。後ろ暗い商いはしていないが、扱う品は変わっている。「普通の飛脚屋では扱えない『曰くつき』の品であること」「お代はお客が決めること」そんな二つの条件に見合った品だけを届けてくれるというのだ。とある「過去」を抱える店主のお静のもとには、今日もやっかいな依頼が持ち込まれ――。優しい涙が流れる人情時代小説。
(本書カバー裏の紹介文より)

静(しず)は、浅草寺近くの田原町の裏長屋にひと月前に越してきました。
長屋に越すのと同時に、近くの手習い所で手伝いを始めましたが、家移りをして初めて一人で炊事をしたことがないと気づき、隣に住む一人暮らしの女・つたに食事の世話をしてもらっていました。

そんな静のもとに、お嬢様然とした年頃の娘と、お付きの女中が訪ねてきました。
娘は『下駄職人様』と宛名のある一通の文を差し出しました。

「こちらを……どこの何という下駄職人さんにお届けすればよいのでしょうか」
「存じません」
「お住まいも、お名前も……ですか」
「はい」
 きっぱりとした返答に、千代の斜め後ろで女中の岩が困ったように眉を下げる。
 静は湧き上がる動揺を押し隠し、千代を見つめ返した。どうやら、これが今回の「曰く」のようだ。

(『隠れ町飛脚 三十日屋』 P.17より)

静は、下駄職人との四年前の根津権現祭での出会いから始まる「曰く」を聞き、千代の依頼を受けました。

静は、初めての飛脚の依頼を果たせるのでしょうか。
依頼人の「曰くつきの文」を下駄職人に届けて、その文に託された想いをかなえることができるのでしょうか。

さて、物語の中で、裏長屋に越して隠れ飛脚屋を始めた静の過去と動機が明らかにされていきます。
幸せいっぱいの生活を失い、心身を壊してしまったつらい過去がありました。

「三十日屋(みそかや)」と屋号は、十七夜を「立ち待ち月」と呼ぶことと「忽ち着く」をかけてつけられた屋号をもつ、十七屋(じゅうしちや)という飛脚屋が有名だったことを念頭につけられました。

朔日の前日の月を三十日の月といい、あるけれど見えない月、それが見えると奇蹟のようだといわれる月、隠れ町飛脚にはぴったりのネーミングです。

陰暦では月の満ち欠けと日にちが一致していました。
朔日は新月と同じで、月が見えません。

やりがいのあることを見つけて再生していくお静を描く、安楽岡美穂(やすらおかみほ)さんの表紙装画も素敵です。

ポプラ文庫新刊チラシ本書挟み込みの出版案内チラシをみると、ラフ画を用いたラフデザインのほうが掲載されていて、完成品とのビフォーアフターが垣間見れます。
出版案内チラシって、入っているとちょっと得した気になり、本好きにはたまらないです。

秋、優しさが心に沁みる人情時代小説を味わいたいと思います。

隠れ町飛脚 三十日屋

鷹山悠
ポプラ社 ポプラ文庫
2020年10月5日第1刷発行

文庫書き下ろし作品。

装画:安楽岡美穂
デザイン:岡本歌織(next door design)

●目次
第一話 初恋の思い出
第二話 若旦那の大望
第三話 桜と幽霊
第四話 亡き妻への文

本文294ページ

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『隠れ町飛脚 三十日屋』(鷹山悠・ポプラ文庫)

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鷹山悠|たかやまゆう|時代小説・作家 2020年、『隠れ町飛脚 三十日屋』で、第9回ポプラ社小説新人賞・奨励賞を受賞し、デビュー。 ■時代小説SHOW 投稿記事 ■著者のホームページ・SNS 鷹山悠@10/6『隠れ町飛脚三十日屋』発売(@t...