阿部牧郎さんの『艶女犬草紙』を読み終えた。
文政年間の大坂。武士を捨て貸本屋を営む町之介は、犬が縁で下宿(したやど。奉行所に出頭する人の控え所を貸す業者)の若女将リサと知り合う。町之介は、「アラぬきの多助」という犬好きの青年とともに、「犬の口入屋」(ペットビジネス)を始めて評判になるが……。
主人公の町之介をはじめ、登場人物たちの個性が犬との距離感を通じてよく描かれていて面白い。たくましい商魂や性がのびのびと描かれている。少しエロティックな場面もあるので、ご注意を。
あとがきから、阿部さんの犬との長い付き合いがわかった。
犬を飼いはじめてから、もう三十年近くになる。犬種はすべて牝のビーグル。いま飼っているのは三代目に当る。
そして、愛犬たちとのエピソードを綴られた後に、この作品の執筆の動機を書かれている。
人と犬の係わりあいを一度小説に書いてみたかった。エピソードは無数にある。町之介シリーズを書き下ろすことになって、主人公と女との関係に犬を絡ませてみようと思い立った。文化文政のころ、じっさいに狆をあつかった商人が大坂にいたという記録を読んで、そんな発想をするにいたった。……
犬を飼っている作者ならではの描写が随所にあり、微笑ましい気分になってくる。
ちなみに、作品の背景になる文政年間(1815~1829)は、三田主水さんの『妖々日本史』こんな時代だ。
http://homepage2.nifty.com/mitamond/nenpyo/nenpyo_bunsei.htm
- 作者: 阿部牧郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/02/16
- メディア: 文庫
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