篠綾子さんの文庫書き下ろし時代小説、『たまもかる 万葉集歌解き譚』(小学館文庫)をご恵贈いただきました。
江戸・日本橋の薬種問屋の小僧・助松が、『万葉集』の和歌を学びながら、謎解きにかかわっていく、「万葉集謎解き譚」シリーズの第2弾です。
しづ子の歌の師匠である賀茂真淵の家に泥棒が入った。しづ子と助松、それに弟子である加藤千蔭に真淵が打ち明けたのは、『万葉集』を狙ったのではという。三日前、将軍家重の弟である田安宗武にご進講した際、真淵は自分のではない万葉集を持ち帰っていた。そこには、ひらがなだけで書かれた万葉集十二首と、干支と漢数字だけが記された三行の不可解な符牒が残されていた。助松たちが葛木多陽人と謎を解き明かすと、幕府を揺るがす大きな陰謀が明らかになる。そして、多陽人の許に田沼意次が訪れていた。
謎解きと万葉集が両方楽しめる、好評シリーズ第二弾!
(カバー裏の内容紹介より)
十二歳の助松は、日本橋の薬種問屋の娘で、国学者賀茂真淵の弟子である、しづ子から万葉集の手ほどきを受けていました。
ある日、しづ子がお供に助松を連れて、講義を受けに八丁堀にある賀茂真淵の住まいを訪ねると講義が急に中止にとなったと告げられました。真淵に話を聞くと、泥棒が入り、『万葉集』の写本が盗まれて大騒ぎになっていました。
盗まれた『万葉集』は、講義のために田安宗武の屋敷に伺った際に、誤って別の人の本と取り違えて持って帰ったものでした。
真淵から「『万葉集』にくわしく、かつ腕の立つ人物に心当たりはないか」と尋ねられたしづ子と助松は、占い師で『万葉集』の歌のほとんどを諳んじて、葛木多陽人(かつらぎたびと)の名を挙げて、引き合わせると申し出ました。
「たとえば、『さし鍋に湯沸かせ子ども櫟津の檜橋より来む狐に浴むさむ』という歌があります。ちょうどいい、助松さんは歌に興味があるということでしたから、助松さんに考えてもらいましょう」
「えっ、おいらですか?」
いきなり真淵に名指しされて、助松は吃驚した。
「この歌は宴の際、狐の鳴き声が聞こえてきた時に詠まれた歌です。席にいた人々が長忌寸意吉麻呂という人に、調理具と食器、狐の鳴き声、川と橋を詠み込んで歌を作るように言うのです。そして、作られたのがこの歌でした。今、私が言ったものを歌の名から探してください」(『たまもかる 万葉集歌解き譚』P.24より)
多陽人が狂歌を作るという話を聞いて、『万葉集』にも狂歌の源となった戯笑歌があるといって、話をつづけました。
さながら、真淵先生の万葉集講座という感じで、話に引き込まれていきます。
真淵は、北八丁堀にある町奉行所与力・加藤枝直の屋敷地内に住居を借りて住まいとしていました。
枝直の子で真淵の弟子でもある十五歳の少年、千蔭が登場(チユキ・クレアさんのカバーイラストで描かれているイケメンの若者)し、謎解きに加わります。
しづ子(油谷倭文子)も実在の人物ですが、加藤千蔭の後に国学者・歌人・書家として知られるようになる人物です。
『万葉集』への興味がこんこんと湧いてきました。
たまもかる 万葉集歌解き譚
著者:篠綾子
小学館文庫
2020年10月11日初版第一刷発行
文庫書き下ろし
カバーデザイン:bookwall
カバーイラスト:チユキ・クレア
●目次
第一首 さし鍋に
第二首 あをによし
第三首 たまもかる
第四首 足の音せず
第五首 憶良らは
第六首 浅茅原
第七首 名くはしき
第八首 青柳の
本文299ページ
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『からころも 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)
『たまもかる 万葉集歌解き譚』(篠綾子・小学館文庫)