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『蜩ノ記』から十六年。泣き虫と呼ばれた少年は師と友に出会う

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『草笛物語』

草笛物語葉室麟さんの長編時代小説、『草笛物語』(祥伝社文庫)を入手しました。

『蜩ノ記』から始まる、羽根藩(うねはん)シリーズの第五弾です。
シリーズの『潮鳴り』『春雷』『秋霜』も、それぞれに面白さがあって忘れがたい作品となっています。

羽根藩江戸屋敷に暮らす少年赤座颯太は、両親が他界して帰国、伯父水上岳堂の親友で薬草園番人の、檀野庄三郎に託される。国許では、藩の家督を巡り、世子鍋千代を推す中老戸田順右衛門と、御一門衆の三浦左近を推す一派が対立。やがて藩主吉通となった鍋千代が国入りし、颯太は陰謀渦巻く城に出仕するが……。『蜩ノ記』の十六年後を描く羽根藩シリーズ第五弾!
(本書カバー帯の紹介文より)

主人公の颯太は、羽根藩の江戸定府の家に生まれ、同い年の世子、鍋千代に小姓として仕える、十三歳の少年。気弱でおとなしい性格で、何事かあるとすぐに涙することから、屋敷内の少年たちからは、“泣き虫颯太”と呼ばれていました。

父と母を相次いで流行り病で亡くして、一人ぼっちになった颯太は、国許に帰りました。そして、伯父の水上岳堂の考えで、親友で薬草園番人の檀野庄三郎に預けられることになりました。

「わたしは昔、薫の父、戸田秋谷様とともに暮らしたことでひととしての生き方を学んだ。秋谷様と違って、わたしにはそなたに教えるようなことは何もない。それでも、かような不出来な男になってはならぬと自分を戒めるだけでも、何かを学んだことになるやもしれぬ。ともあれ、縁あってわが家に参ったのだ。今後はわれらを身内と思って、何でも言ってくれ」
 庄三郎の温かい言葉にふれて、颯太は涙ぐんだ。不意に亡くなった父母のことが思い出されて、胸が詰まったのだった。
 
(『草笛物語』 P.56より)

本書で何よりも楽しみなのは、『蜩ノ記』の登場人物たちの十六年後の物語となっていること。

檀野庄三郎は不始末を犯し、家老の命で、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされて、家譜編纂補助と監視を課された若き藩士でした。秋谷との交流の物語は、『蜩ノ記』に描かれています。

本書では、庄三郎ともに、秋谷の子供たち、薫や郁太郎も成長した姿で登場します。

庄三郎のもとで育てられた颯太は、やがて城に出仕し、藩主となり吉通と名を改めた鍋千代と再会します。

成長して出仕した颯太は、藩内の抗争に巻き込まれることに……。

羽根藩は、豊後国のどこかにある、架空の藩でありながらも、作品を重ねるごとに、パーツが集まって組み立てられていくジグソーパズルのように、その地の地形や風景、四季の移ろい、人々の営みが目の前に広がってきます。

草笛物語

葉室麟
祥伝社 祥伝社文庫
2020年9月20日初版第1刷発行

単行本『草笛物語』(2017年9月、祥伝社刊)を文庫化したもの。

カバーデザイン:多田和博+フィールドワーク
カバーイラスト:ヤマモトマサアキ

●目次
草笛物語
解説 内藤麻里子

本文336ページ

■Amazon.co.jp
『蜩ノ記』(葉室麟・祥伝社文庫)
『草笛物語』(葉室麟・祥伝社文庫)

葉室麟|時代小説ガイド
葉室麟|はむろりん|時代小説・作家 1951年1月25日 - 2017年12月23日。 福岡県北九州市小倉生まれ。西南学院大学文学部外国語学科フランス語専攻卒業。 2005年、「乾山晩愁」で第29回歴史文学賞受賞。 2007年、「銀漢の賦」...