『大河の剣(一)』
稲葉稔さんの文庫書き下ろし時代小説、『大河の剣(一)』(角川文庫)を入手しました。
「武士の流儀」や「浪人奉行」、「隠密船頭」など、多くの文庫書き下ろしシリーズをもつ、時代小説家の稲葉稔さんの、待望の時代小説シリーズの誕生です。
川越の寺尾村の名主の長男・山本大河は、村の者が呆れるほどのやんちゃ坊主ぶりを発揮していた。あまりの無法行為に手を焼く父・甚三郎は、大河を勝光寺の和尚に預け、性根を叩き直すことを決めた。だが、大河の性根は直るどころか、やがて強い意志となって表れてきた。「剣で強くなりたい」との想いは、武者修行途中の剣士・高柳との出会いによって、大河の運命を大きく変えていく――。著者渾身の書き下ろし長篇時代小説。
(本書カバー裏の紹介文より)
本書の主人公は、武蔵国川越の寺尾村の名主山本甚三郎の倅・大河、十三歳の少年。
年下の子供たちをいじめたり、干し柿を盗んだり、百姓の農耕用に飼っている馬を無断で乗り回した挙句に畑に乗り入れて荒らしたり、竹林のなかの竹を父祖伝来の刀で斬りつけてめちゃくちゃにしたり。
ガキ大将でやんちゃが過ぎて、村の百姓から毎日のように、甚三郎のもとに苦情が寄せられるほど。
甚三郎が厳しく注意しても言うことを聞かずに、大河は「強くなりてぇ」という思いに駆られて剣術の稽古の真似事を続けました。
反省を見せずに名主の跡を継ぐ気はなく、「剣術家になりたい」という大河は、生活態度を改めるために隣村にある勝光寺の圓山に預けられました。
ところが、寺の住職圓山に無断で境内にある竹林で筍を取ったり、裏の林でぜんまいや蕗を採ったり、寺の戒律を破って、川に入って魚を捕り、蜆や田螺を採ったりしました。
大河は、寺にいても面白くもおかしくもなく、江戸に行って剣術修業をして強くなりたいという思いが日に日に募っていきました。
「それでは、私を斬ることはできぬ」
なにッと歯を食いしばった大河は、本気で打ち込んだ。侍はひょいと身をひねってかわす。突きを送っても胴を払いに行っても、侍の体をかすることもできない。
「よし、わかった」
侍の声で大河は打ち込みをやめたが、息が上がっていた。
「筋がいいな。鍛錬次第でものになりそうだ。名はなんと申す? わたしは高柳又四郎と申す」
「山本大河です」
(『大河の剣(一)』 P.51より)
手製の木刀を手に、寺を脱け出して近くの林に行って、木の幹や枝を打ちたたき続けていた大河は、武者修行の旅の途中で川越に向かう侍・高柳又四郎に声を掛けられて、稽古を付けてもらいました。
又四郎は、中西派一刀流中西道場の三羽烏の一人(ほかの二人は寺田宗有、白井亨)で、「音無しの剣」と呼ばれる難剣の遣い手として知られた剣客です。
弘化四年(1847)三月。
寺の暮らしで性根の直らない大河は、圓山の勧めもあって江戸へ剣術修業に出ることになりました。父の甚三郎も修業に挫折して江戸から村に戻ってきて親の跡を継ぐこと期待して、大河を江戸へ送り出しました。
一途でやんちゃな大河が、江戸でどのような剣術修業を送るのか、熱い物語の世界に引き込まれていきます。
異国船の来航に備えて、江戸湾周辺の沿岸警固が雄藩に命じられ国防の意識も高まり、江戸は三大道場が隆盛で剣術ブームまっただ中です。
大河が剣の修業を通じて、どのように成長し、自分の運命を切り拓いていくのか、とても楽しみなシリーズが始まりました。
大河の剣(一)
稲葉稔
KADOKAWA 角川文庫
2020年8月25日初版発行
文庫書き下ろし
カバーイラスト:浅野隆広
カバー写真:アフロ
カバーデザイン:國枝達也
●目次
第一章 やんちゃ坊主
第二章 約束
第三章 元服
第四章 鉄砲洲の決闘
第五章 傘張り
第六章 大法螺吹き
本文312ページ
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『大河の剣(一)』(稲葉稔・角川文庫)
『武士の流儀(一)』(稲葉稔・文春文庫)
『浪人奉行 一ノ巻』(稲葉稔・双葉文庫)
『隠密船頭』(稲葉稔・光文社時代小説文庫)