『妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)』
宮本紀子さんの文庫書き下ろし時代小説、『妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)』(時代小説文庫)を紹介します。
本書は、おてんば姉・里久と小町娘の妹・桃の姉妹が看板娘として家業の小間物商をもり立てる、江戸ガールズ小説の第2弾です。
夏の空が晴れ渡る七月十六日。日本橋伊勢町の大店、小間物商「丸藤」の惣領娘・里久は、藪入りでも里帰りはしないという小僧の長吉につき合って、蔵前の閻魔堂へ参拝に来ていた。どことなく寂しげな長吉を誘い、里久は屋台の天ぷらを堪能するが!? 一方、暦は進んで十月。里久の妹で、伊勢町小町と呼ばれる丸藤の看板娘・桃のもとに、縁談が舞い込む。姉より早い妹の縁談に、両親は戸惑い、想い人のいる桃の胸の内は揺れに揺れて――。日本橋の老舗小間物商をもり立てる姉妹の物語、大好評第二作。
(本書カバー裏の紹介文より)
活発で何事にも真正面からぶつかっていく姉の里久。そのために次々に騒動を起こしていきます。
「お嬢さん、そのお顔はいったいどうなさったんです」
「えっ、顔?」
そこではじめて里久も異変に気がついた。そう言われてみれば顔がなんだか疼く。触ってみると痛かった。それになんだか胸もむかむかする。
江戸では春先から麻疹が流行り、それに加えてこのところ悪い風邪まで流行っていた。
(『妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)』P.15より)
藪入りでも里帰りをしない小僧の長吉につき合って、両国広小路で屋台の天ぷらを立ち食いしたあげく、いくつもの大きな粉刺(にきび)を顔に作ってしまいました。
女中の民や母、須万、長吉らを心配させたり慌てさせたりしたあげく、かかりつけの老医師から、粉刺と診断されて、三日間治療を続けるように言われました。
浜育ちで肌の浅黒い姉に対して、妹・桃は伊勢町小町で家族にとっても自慢の娘で、色白でおしとやかで、お茶やお花、三味線の稽古までそつなくこなします。しかも、化粧や小間物の豊富な知識に助けられていました。
隠居は大きな肩をすくめ、腿はしみじみと眺めた。
「ほんに、おまえさんはめっぽうきれいな娘だ。でもね、わしに似ているっていうのは本当だよ。おまえさんのその頑なな目は、昔のわしを思い起こさせる。それにその振袖だ」
桃は己の形を見回した。
娘らしい小花を散らした小紋に、色柄合わせた昼夜帯。隙のない着付けと髪飾り。「丸藤」の娘らしく、うしろ指をさされないようにとの身拵えだ。
「きれいなおまえさんのそのべべが、わしには鎧のように見えるんだよ」(『妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)』P.110より)
小さい頃から、店に恥をかかせないようにきれいになることで「丸藤」の娘を演じてきた妹の桃。その桃に縁談が持ち込まれて、悩んだ末にお見合いをすることになりました…。
今回は、非の打ち所がない看板娘・桃にスポットを当てて物語が展開していきます。
外見から性格まで、好対照の里久と桃。二人の看板姉妹が家族や店の者、お客さまに幸せをもたらします。小間物商「丸藤」は今日も大繁盛です。
小粋で、ハートウォーミング、読むと気分が晴れやかになる、本書を楽しみました。
妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)
宮本紀子
角川春樹事務所 時代小説文庫
2019年12月18日第1刷発行
文庫書き下ろし
装画:おとないちあき
装幀:アルビレオ
●目次
第一章 藪入り
第二章 里帰り
第三章 びらびら簪
第四章 女友達
第五章 妹の縁談
第六章 味見の茶
第七章 桃の決断
本文230ページ
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『跡とり娘 小間もの丸藤看板姉妹』(宮本紀子・時代小説文庫)(第1弾)
『妹の縁談 小間もの丸藤看板姉妹(二)』(宮本紀子・時代小説文庫)(第2弾)