『駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖』
知野みさきさんの文庫書き下ろし時代小説、『駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖』(光文社文庫)を入手しました。
反物に絵を描いたり、紋を入れたり、染め物の上に絵を描く職人、上絵師(うわえし)として、ひたむきに生きる、律(りつ)を描く、大好評シリーズの第6作です。
涼太と祝言を挙げ、青陽堂の嫁としての新たな生活を迎えた律は、息抜きに出かけた先で、同じく嫁いだばかりの女たちと知り合う。悩みを打ち明け合える知己を得て心強く思う律だった。
一方、池見屋で、律は義母の佐和もよく知る由里という女性に出会う。彼女は何やら心に憂いを抱えている様子なのだが――。一途に生きる女職人の人生を描く人気シリーズ第六弾。(カバー裏面の説明文より)
文月十五日に予定していた律と涼太の祝言は、やんごとなき事情(第5作『つなぐ鞠』に描かれています)からひと月延び、葉月十五日、中秋の名月に合わせて行われました。
今年(2020年)の「中秋の名月」は十月一日だそうですが、旧暦ではずっと八月十五日です。八月は中秋であり、十五日は満月となります。
耳元で涼太が囁いた。
「……痛むか?」
「いえ……」
掠れた声で律は嘘をついた。
痛みは相応と思われたが、想像していたものとは大分違う。
(『駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖』P.7より)
今回は、大人っぽい、初夜のシーンから物語が始まります。祝言の一日の様子が描かれていて、シリーズの読者としては、なかなか進展しない関係にやきもきしたこともありますが、ようやく二人に「おめでとう」と声を掛けられました。
「昨日?」
「昨日、中秋の名月に合わせて祝言を挙げたの。でもまあ、夫とは昔から知っている仲だから、なんだかまだぴんとこないわ」
「わ、私もです」と、律は思わず勢い込んだ。
「えっ?」
「私も昨日祝言を挙げたばかりで……お、夫とは幼馴染みで……」
「あら、それは奇遇ね」
伶は手を叩いて喜んだが、涼太を「夫」と呼んだだけで律は頬が熱くなるのを感じた。(『駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖』P.23より)
祝言の翌日、律は嫁としての顔見世とあいさつが一段落つくと、寛永寺に息抜きに出かけました。そこで、同じく昨日祝言を挙げた伶と、文月十五日に祝言を挙げた新妻すみと出会いました。
葉茶屋の嫁となり、新妻となった、上絵師律の新しい生活が始まりました……。
駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖
知野みさき
光文社 光文社文庫
2020年6月20日初版第1刷発行
文庫書き下ろし
カバーイラスト:チユキクレア
カバーデザイン:荻窪裕司
●目次
第一章 新妻たち
第二章 護国寺詣で
第三章 兄弟子の災難
第四章 駆ける百合
本文337ページ
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『駆ける百合 上絵師 律の似面絵帖』(知野みさき・光文社文庫)(第6作)
『つなぐ鞠 上絵師 律の似面絵帖』(知野みさき・光文社文庫)(第5作)
『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』(知野みさき・光文社文庫)(第1作)