高橋克彦さんの『おこう紅絵暦』を読んだ。『だましゑ歌麿』の続編に当たるが、捕物の主人公が南町奉行所同心仙波一之進から、その妻で元柳橋芸者のおこうに移る。一之進は前作の活躍により、おこうを妻に得たばかりか北町奉行所に移り筆頭与力に出世している。(同心・与力は建前として一代抱えだが、現実にはほとんど世襲の形になっていたので、南町から北町奉行所に移ることも、同心から筆頭与力に昇進することもきわめて異例のこと)
『おこう紅絵暦』では、一之進が与力になったために探索の最前線に立てないこともあり、おこうと一之進の父で隠居の左門が大活躍ぶりをみせる。
第一話「願い鈴」
筆頭与力の妻おこうのもとに、柳橋時代の同僚のおしずがやってくる。柳橋で花や辻占売りをしていた少女お鈴が幇間(たいこもち)殺しの疑いで捕まったという。無実のお鈴を助けてほしいと頼むが……。
おこうの魅力は、粋と気っぷのよさで、法が守れない弱い者を救うためにとことん闘うこと。元柳橋芸者であるばかりか、「ばくれん」だった少女時代も明らかになる。その過去も彼女にとってはマイナスではなく、事件を解決する力になっている。おこうの行動力と謎解きの楽しさ、登場人物たちの掛け合いの面白さ、人情味があふれる、楽しい捕物帳になっている。これは前作とまったく異なる味わいである。
おこうは霊験などの特殊な能力をもっているわけでも、武勇に優れているわけでもなく、頭脳が並外れて優秀なわけでもない。おこうは、つい見落としがちなちょっとしたことが気になったり、不審な点に目がいくと、なぜ、そうなのか調べてみる。そこに解決の糸口が見つかる。喉につかえがあると落ち着かない性格が、事件を解く行動力となる。そして、このおこうを助けるのが、隠居の左門であり、浮世絵師春朗(若き日の葛飾北斎)である。
ハードカバーで第3弾の『春朗合わせ鏡』も発売されたばかり。こちらは春朗にスポットが当たっているみたいで、早く読みたい一冊。
- 作者: 高橋克彦
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コメント
春朗合わせ鏡読みました。雑誌に連載されていたときから楽しんで読ませて貰いましたが、北斎が鏡師の一族とは知りませんでした。小説を読むと色々な事が解って楽しいですね。但しよく調べて書いている方のに限りますけど。
http://ja.wikipedia.org/wiki/葛飾北斎
ウィキペディアでは、1764年、幕府用達鏡師であった中島伊勢の養子となった、とあります。
高橋克彦さんは、都筑道夫さんの『ちみどろ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ』の解説で、時代小説における考証の大切さを書かれていたので、よく調べて書かれていると思います。しかも、浮世絵は得意なテーマですから。